『■■□■■』
- ナノ -



? 下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打と


最近の良かったこと。
彼が一度も自殺しようとしていないこと。生きることに気力を持ち始めたようだ。
もう一つは彼がしっかりとご飯を食べるようになったこと。良かった良かった。
更には私の声にも少しだけ慣れたようで、以前より多くの事を聞き取っても大丈夫になった。それでも聞きすぎると頭が割れるように痛むようだが。

それから感心したことがある。
勿論彼に関してだが、彼は目が見えないというのに見えているように動く。
慣れたとか言う前に、それが自然であるかのように行動するから、自分で治療したのに彼の目玉がもうないということを忘れそうになる。

怪我も治りが良い様で、半年かかって治りそうな傷が既に治りかけている。
……流石に可笑しくないか。なんでもうそんなキビキビ動けてるんだ。
しかし、本人も疑問のようで首を傾げていたりするから何とも言えない。なんでだろう。

『め、みえない、へいき』
「……平気じゃない。けど、仕方ないだろう」

そ、そうだよね。ごめん。
余りにも自然にふるまうので、実は元々盲目だったと踏んで問いかけてみたが、冷たく返答されてしまった。
彼を囲ってから二週間以上経過した今では私の方から声をかけてみたりしている。
ある時から彼が私に問いかけをすることが少なくなってしまって、寂しくなった私が一方的に質問をしたりしているのだ。折角いるんだから話そうぜ!
でも返ってくるのはもの悲しい返事ばかりだ。でもちゃんと答えてくれるのが嬉しくて声をかけてしまう。
一人でしょんぼりしていると、彼が顔を上げる。
そこにはやはり包帯が巻いてあって、眼球がないせいか目の所が窪んでいるように見える。

「……目は、どうにもならなかったのか」

うっ。

『ご、めん』
「なんでお前が謝るんだ」
『なおせ、な、かった』

謝ったら怒られた。でも、神なんて名乗ってる癖に治せなかったし、目が見えなくなるのは辛いだろう。申し訳なくなってくる。別に私が悪いわけじゃないのは分かっているから、気持ち的にだ。
彼はずっと緊張して憤っている様子だ。そして時折傷が痛む様子を見せる。それを見ていると余計に、という話である。
彼は顔を怒ったように歪めて、それから息を吐きだした。

「……君は、最初に敵じゃないと言ったな。何故だ?」

あれ、私を指す時の名称が、お前から君になってる。
驚きつつ、敵ではないわけを音に出す。

『いけにえ、いらない』
「な、生贄が要らないだって!? そんなのじゃあ神性存在を呼びほうだ――ごほっ!」
『あばれ、る、だめ』

どうやらあまりよろしくない事を言ったようで、彼が興奮してしまった。
喉部分を抑え込んでベッドに沈んだ彼へ触手を伸ばす。
触れた瞬間に振り払われてしまったが(ショックだ)それでもめげずに本数を増やして両手を拘束して、傷口を見る。歯を食いしばっているが、きっと痛みだけじゃなくて悔しさもだろうな。
患部を見てみると、喉が赤く腫れていた。ちょっと待て、私これ知らないぞ。
よくよく見てみると、どうやら器官に傷があるらしい。気づかなかった。
一週間前に診た時は腫れていなかったから、それ以降腫れたのだろう。痛々しくて、これでずっと話していたのかと思うと感心してしまうほどだ。
でも。

『だま、って、た』
「だから、なんだ……!」

そりゃあそうだ。彼にとってみれば「だからなんだ」って話だ。
でも、もうちょっとぐらい信頼してくれたっていいじゃないか。
傷は治すし世話も見る。怪我が全部治ったら外に出すための手段も探すつもりだっていうのに。

ふん、いいさいいさ。こんな化け物信頼できないのが普通だよな。
じゃあいいよ。こっちもそれなりの治療をしてやるし。

触手に治療用の軟膏を塗りたくる。
本当は軟膏を渡して自分でやってもらうのが一番だろうけど、もしかしたら警戒して使わないかもしれないし。
その触手をぬるりと近づける。

「く、そ、離せ……」
『い、や、むくい、うける』
「っ」

報い、という言葉に反応して身体が強張る。
動きが止まったその瞬間に軟膏を塗りたくった触手を彼の口へ突っ込んだ。

「っぁ、うぇっ」

噎せこんだ喉の動きに触手が吐きだされそうになるが、無理やりにねじ込んだ。
そのまま患部に入念に軟膏を塗りこむ。

「っ、っ……!」

彼の身体がビクビクと動いて、汗がにじみ出る。
その様子を見て、なんだかやばい事をしている気分になった。
……なんだろうな。うーん。

スポン、と触手を抜いて息を自由にさせる。
大きく息を吸い込んで咳き込みながら胸を大きく上下させている。口からは涎が出ていて、汗が首筋を伝っていた。

……あっ、触手物。

『(やっべー! これやばい奴だわー!! 発禁だったわー!!)あ、と、じぶん、やる』

サッと軟膏が入った容器を置いてそのまま触手を下げる。
視界も中から外へ移動させた。

……なんというか。そうか。自分触手だもんな。こういうことも出来るっちゃあ出来るのか。
……まぁこの身体性欲とないし、大丈夫だろう。うん。

出来れば人間を襲う謎のエロ触手になるのは控えたいものである。