『■■□■■』
- ナノ -



? およばぬ無明の房室で


今回の実験は、形を変えられるか。である。
そう、大きさを変えるだけではなく、そもそも形を変えるのだ。
私の中に空間をつくるなども出来たのだから、もしかしたら理想の形を作れるかもしれない。
というわけで、実践なのだが、このまま形を変えてしまうと中の彼が押し潰されてしまうので、手のように触手を伸ばしてその先だけを変えてみようと思う。

しかしどうやろうか。イメージしながら力でも入れてみようか。
イメージは、人の手。成功したらかなりキモイことになるが、これで成功すれば触手を人間の形にして人間の声を出すこともできるかもしれない。

よし、では……それ!


――出来たのは貝のような、その貝に虫の足を何十本も付け足したような、なんか見た瞬間に発狂しそうな凄まじい物体だった。しかも、それ、動かそうとすれば動くのである。


やめよう。
私は諦めた。


私が諦めてから一週間。そこからは一日(と思われる)時間の中で彼と一言二言だけだが交流する日々となった。
彼は私の言葉を聞きすぎると頭痛を起こすらしい。
なんというか、申し訳ないけど改善できないんだ。だって手を造ろうと思ったら虫というものを冒涜しているかのような悍ましい昆虫が出来るのだ。努力する気もうせる。
そもそもが気持ち悪いからこんなものしかできないんですかねー。不貞腐れそう。

でも彼との会話はとてもとても楽しい物だった。
彼はとても警戒していて、私はなんだとかここはどこだとかしか最初は口にしなかった。
でも私は私の事が分からないし(一応神だとは言ってみたけど)、ここが何処かもよく分かっていない(異界だとは言ってみたけど)。彼は難しい顔をしながら頭を抱えていた。
それでも何か聞かれたり、喋ったことに対して返答が来るのはやはり嬉しい。
一週間もすれば私が危害を加えようとしていないことを察したのか、彼は警戒しつつも敵意は沈めるようになった。

「お前は、どうして僕を助けようとしたんだ」
『ひ、と』
「人?」
『ひと、だった、から』
「……意味が分からない。お前は“神”だと言ってたじゃないか。そんな存在が矮小な人間を助けるなんてことをするのか? どういうつもりなんだ」

どういうつもりって聞かれても……。
ただ、人間がいて、死んで欲しくなかったから助けただけだ。深い意味なんてない。
人が倒れていたら心配するし、どうにかしたいと思うだろう。それだけだ。
でも、敢えていうなら。

『ひま』
「……暇だって?」
『ひま、だった』

まぁ、人間余裕がないと中々人を助けようとは思えないだろうし。理由が欲しいのだというのなら、これで十分だろう。彼は頭を抱えて(私と話すと彼は大概頭を抱える)それから「もう何も話すな」と突き放す様にいった。たぶん、声が頭に響いたとかそういうのじゃなくて、気分的に私の喋る内容を聞きたくないのだろう。
仕方あるまい。生贄として放り込まれて治療されて、そりゃあ混乱もするだろう。
私はひっそりと視点を外に移してぼけっとした。