『■■□■■』
- ナノ -



? 時を超越した想像も


一安心だったはずなのだが、彼は今の所重体である。
寝ていても痛みで起きることがあるようだし、そもそも痛みで寝られていない時もある。
食事はちゃんと一日(だと思われる時間)に三回だしているし、彼もそれを食べている。
だが痛みで食事がとれないときもあるようであるし、時折口にしてくれないものもある(少し匂いが強い物などだ)。血は止まったようだがまだまだ油断ならない状況である。

傷の手当ぐらい出来るかな、とも思うのだが、そうすると彼に触れることになる。
恐らく私の事を敵だと思っているであろう彼に触手で触れるとなると、たぶん氷漬けにされる。
一応超能力だとしても、力として使うのだから体力消耗に繋がるだろう。疲弊している彼にそんなことはさせたくない。
と、なるとやはり手段は言葉になるのだが、なかなかどうして人間の声が出るようにならない。

『■■□□■■』

あともうちょっとなんけどなーと思いながらもどうにもならない現状である。
どうするべきかと考えていると、中で何か異変が。
もしかしてこの感触は……。
確かめてみると、予感が的中していた。彼はまた氷を使って中から攻撃していた。
だから駄目だって。死んじゃうって!
溶かして無駄だとアピールしてみるが、彼は止まらない。幾つもの氷を作り出して、まるで死ぬ気であるようだ。
ちょっとムカついて、触手を十本ほど一斉にだして背後から彼を絡め捕る。

「なっ!?」

咄嗟に出してきた氷で五本ほど凍らせられたが、関係ない。更に十本追加して動きを止めさせる。

「ハッ、ようやく姿を現したか。化け物!」

ひ、酷い……いきなり化け物呼ばわりなんて。確かにそうなんだけど。
しかし警戒心MAX状態だな。どうしたんだろ。

「こんなところに閉じ込められて、食事だけ与えられて……まるで生き地獄だ。殺すなら殺せ!」

よくよく見れば、声や態度が正気ではない。
ああ。そういえば彼がここに来てから一週間ほど経過したが、密封されたこの空間で目も見えずに食事だけ与えられている状態なのか。しかも重体だし、中々に精神に来る状況だな。
でもどうすればいいんだろう。触手で絡め捕ってしまったが、敵対する意思がないことをどうやって伝えれば……。このままじゃあ彼の身体がどうこうなる前に精神が壊れてしまう。
悩んで、悩みまくって、それで、意を決した。

喋ろう。それで、彼に敵じゃないよとちゃんと言おう。

声を整える(気持ちだが)そして、ゆっくりと彼に向って音を発した。

『■■で□□ぁ■■ぐ』
「っぐ、ぁっ」

ああああああやばい彼の様子がおかしい。絶対精神攻撃受けてるうううう!
でも、それっぽい音は出た! このままいけばきっと話しかけられる!
ちょっと、ちょっとだけだから、我慢して!

『□□は■ぃ』
「あ、たまが、われ、る……!」

割れないでええええ! もうちょっと、もうちょっとだから!!!
苦痛に歪む顔は汗もにじみ出ていて、口から涎が流れている。
そんなに!? そんなになの!?

『て、■――ち、が■』
「なん、だ……こえ……?」

よし、聞こえてる! あとちょっとだ!

『てき、ちが、う』

出た! そう思った瞬間、彼の身体から力が抜けた。
声に耐えきれなくなったのか、気絶してしまったのだ。大慌てで息があるかを確認して、どうやら息もあるし、心臓も止まっていないと確認して安堵の息を吐きたい気分だった。
しかし、一応言葉は伝わったはず――たぶん。
氷を全て溶かして、彼を中に横たえさせる。
意識を失った今の内だと彼の傷を見る。そして後悔した。適切な処置でなかっためか、所々膿んでしまったり悪化してしまっているところがある。この状態で動いていたのか、根性凄すぎだろう。
……どうにかしなきゃ。


ニャル! ニャルちょっと来て!
えっ、そうそう。君の事だよ。
それでさ、人間の傷の処置の為のセットみたいなの持ってきてもらっていい?
そう。包帯とか消毒液とか入ってるの。
あ、あとそれから、人間が生活できるための一通りのセットも!
うん。よろしく!



ニャルに応急手当用の備品を一通り持ってきてもらってからは、触手を動かしまくった。
ある意味で集中治療室みたいな有様になっていた中で、触手を使い傷の手当てをした。
膿を取り除いて消毒をして包帯を巻いて、骨が折れているところもあったので形を整えて固定して。
本当によくこれで生きてたな。
でもどうしても眼だけはどうにもできなかった。完全につぶれてしまっているし、私に出来ることは中で潰れている眼球を取り出して中身を清潔にすることだけだった。

その後は日常品を持ってきてほしいと頼んた際に持って来られたベットを設置してその上に寝かせた。
服装も変えさえてもらって、完全に病人の姿になった。でもこれがベストな状態だ。
これで暴れたりしなければいいんだけど……。

治療を施してから三日後。彼は目を覚ました。
と言っても目は開けられない。目元は包帯でぐるぐると覆ってしまっているし、開けても中身がない。
身体をゆっくりと起こした彼は、自分の身体を確かめているようだった。

「これは、一体……」
『お、きた』
「ッ!?」

身体を震わせて周囲を確認する彼に、ちゃんと聞こえているか心配になる。

『から、だ、へい、き』
「……お前がこれをやったのか?」
『そ、ぅ』

男性が警戒をしながらも聞き返してくる。ちゃんと聞こえているようだ。嬉しい。
しかしなんとも喋り辛い。でも少しでも軽やかに声を出そうとすると理解不能言語になってしまうのでこれは仕方がないと諦めるしかないようだ。

『あな、た』
「ぐっ」
『ど、し』
「喋るな……! 頭が割れそうだ……!」

呻いた彼にどうしたのかと聞こうと思ったら、遮られた。
私の声は彼にとってはまだまだ有害のようだった。泣きそう。
私は口を閉ざして、頭を抱える彼を眺めることに徹した。
しょうがないんだよ! この何個も声が混じりあってるみたいなのはどうにもできないんだって! そもそも形変えなきゃ……形。
ちょっといいこと思い付いた。また新たな目標が私の中で誕生したぞ。