『■■□■■』
- ナノ -



? 冒涜の言辞を吐きちらして沸きかえる


とりあえず、助けよう。
思ったのはそれである。だって人間だし、元同族だし。助けないわけにはいかない。
流石に見捨てることはできなかった。
と、そんなわけで早速触手で触れようとしたわけだが――問題が発生。この触手、触れただけで楽器鳴らしてたやつとか潰してたんですけどー。
触れねぇじゃねぇか!! どうすんだ、最初から詰んだぞ!

考えて、それから自分が身体を変化させられることに気づいた。
触れただけで潰すのは、きっと自分の力が強いせいだ。そしてこの身体はいくらでも巨大になれる――つまりその逆も可能という訳である。
ということで早速実践。面白いようにみるみる身体が縮んでいって、一軒家ぐらいの大きさになることができた。これでようやく人間を人間と認識できるな。

そして――本題の人間との接触タイムである。
恐る恐る。傷つけないようにゆっくりと触手を伸ばしていく。
見るからに有害そうな私の触手は触れた瞬間に相手を溶かしてしまいそうで怖い。
溶けないように傷つかないように普通に触れますように――!

ぺと、と触手が人間の服に触れる。
ちょっと間をおいて離してみると、溶けてもいないし破れたりもしていない。
良かった! 大丈夫そうだ!
空間に半ば浮いているような状況になっている人間を触手で絡めてゆっくりと自分の目の前にこさせる。
別にどこでも見れるから前とかないのだが、一応である。
見て分かったのは、やはり目が潰されているのか酷い有様になっていることと、様々な所から血が流れ出していることだ。どうやら体中に傷があるようで、よく五体満足であると思えるほどだった。
服装はズボンに革靴、青いシャツを着ている。どれも血に濡れて痛々しいばかりである。
少し癖のついた黒髪に潰れた眼を見なければ整った顔立ち。

……なーんかどこかで見たことがあるぞ。
なんだろ。なんだったっけなぁ。うーん?
内心首を捻っていると、触手から伝わる感覚であることに気づいた。
なんか――息してなくね?

……うわああああああああああああああ!! 死んでるぅうううううう!!!






――結論から言おう。
どうにかなった。

いやぁ、なんというか。触手で心臓マッサージとかして、そもそもこの空間が空気がなさそうなことに気付いて、じゃあ自分は息してる気がするから私の中にだったら空気あるんじゃね!?
となって身体に一部屋分ぐらいの空間を作ってそこに放り込んだ。
それから改めて心臓マッサージとかあれこれやっていたら息を吹き返した。
す、すげぇ。私、やり切ったぜ……一人の人間の命を助けたぜ……。
しかし人間ってあれだけ長時間息が止まったままでも吹き返すもんなんだな。なんとなく違和感のある息の吹き替えし方だったけど――まぁ必死で助けようともがいた結果の奇跡ということにしておこう。

とりあえず生き返ったということで、そのままちょっと放置してみた。
下手に動かし過ぎるのもよくないだろうという考えの元だ。
そうして恐らく一日ほど放置して――気づいた。怪我そのままだし、消耗して死んじゃうんじゃね?
私は馬鹿か! なんでそんな普通の事にも気づかないんだ!
慌てて中で治療を施してみた。と言っても適当のシャツを脱がせてそのシャツを包帯みたいに細く切って怪我をしているところに巻いていくだけの作業であるが。

そうしてまた一日様子見である。
すると、私の身体の中で眠る男性が(この表現面白いな)ピクリと動いた。
仰向けに横にしていた彼は、低い声で唸った。これは、恐らく痛みに呻いているのではないだろうか。
どうにかできないだろうかとあわあわしていると、彼がゆっくりと身体を起こした。
うわああ動くなよおおお動いたら死んじゃうだろおおお。

「ここ、は、どこだ……」

お、おお、凄い。喋った。
しかしなんだか聞き覚えのある声。なんだろう。
というか、彼を見ていると何かを思い出しそうな気がヒシヒシとするのだが、本当に何を忘れているのか。
観察していると、男性は目の部分に手を当てた。

「目が……潰れたのか。くそっ」

う、可哀想……。そうだよな、いきなり目が見えなくなるなんて辛いよな。
どうにかしてあげたいけど、私ただ身体を好きに大きくしたり小さくしたりしかできないから……。

「あれは、一体なんだったんだ、召喚術か……だが、失敗したことだけが救いか……」

召喚術? 何かを召喚しようとしていたのだろうか。だが、彼が実行しようとしていたわけではないようだ。寧ろ阻止しようとしていたっぽい。そして阻止に成功した。

「そして俺が生贄となり犠牲に、か……」

しかしそれ相応の代償を払ったらしい。どうやら彼は生贄としてここに――って、え? 生贄?
どうやら情報をくれる生物は生贄として連れて来られた彼を、強奪か何かしてここへ持ってきたようである。いのかな、生贄連れてきちゃって。でも、生贄にされて殺されるよりはここに連れて来られた方がマシだったかもしれない。一番いいのは常識ある人型の所へ行くことだが。

「これから、俺はどうなる――……」

一人自問している彼に、流石に哀れになってくる。
一本触手を伸ばして、そろーりとその肩に触れた。

「っなんだ!?」

えっとですねー私は……って私喋れないよ。
人間の言葉じゃなくてもいいんだったら喋るんだけど、たぶん聞き取れないよねきっと。
警戒心MAXな彼は、目が潰れているのに触手に向かって身構えてくる。勿論距離は十分にとっている。
でも私の中なので足元からも触手伸ばせるんだけど――やめとこ。更に警戒されても困るし。
しかし、意思疎通できないと何ともいない。
私はグロデスクな触手を彷徨わせながら、必死で言葉を喋ろうと――

「ぐぁあ!?」

えっ何々!? 口を開いた瞬間、彼が苦しみだした。
何々、何があったの!? 吃驚して口を閉じると、彼は悶えた後に、息を荒くしながらも意識をしっかりと持ち直した。

「なんだ……精神攻撃か……?」

私の声は精神攻撃ですか。そうなんですか。
……いや、分かってたよ。確かに人が聞いたら頭狂いそうな声だなーとは思ってたけど、まさか精神攻撃レベルだとは。
私はとりあえず口を閉ざして様子見に徹した。
別にショックだったとかそんなんじゃない。