『■■□■■』
- ナノ -



? 暇過ぎてやってきた人間の看病をする私は


「ぅん。ぜんぶみつけた」

見つけた。全部見つけた。まったく、せっかくスカーフェイスとの再会だったのに、こんな事になるとは。運がない。
なので早々に爆発物処理だ! レオナルドという万能発見器あるからね、もうこっちのもんだ!
じゃあ後は――

「ぜんぶ、つぶす」




クラウスとスティーブン、レオナルド、そしてヘルサレムズ・ロットの人々は見ることとなった。
上空から降り注ぐ触手の束を。その触手が羽化した蝶をのみ込み、諸共爆発する光景を。
その日、触手を見た百数名が正気を失い、失神や幻覚、奇声を上げながらの失踪、一時的な記憶混同に陥ったそうだ。

レオナルドは、ギリギリ、本当にギリギリ触手や少女を神々の義眼で目視せずにすんだ。
寧ろ、ちょっとばかり見てしまった気もするが、ちょうどよくその部分の記憶だけ曖昧なので、見ていないということにしていた。

『ぜんぶ、つぶす』

レオナルドは、落下しながらも思う。
あの少女の言葉は、ただ事実を言っているだけだった。例えば、小さな子供が蟻の行列を見つけたとして、その行列の蟻をさぁ潰そうと口にだした。そんな感じだ。そこに、悪意も害意もない。だってその子供は、それが悪いことだと思っていないから。ただ潰すのが面白いから潰すのだ。面白いと思うことは悪いことなのか、そんなことはない。だが、蟻にとってはそうではない。
今回の蟻は、生物兵器である蝶だった。少女に無意味であると、邪魔だと潰された。
だが、レオナルドは思う。
その蟻が――人類だったら、と。

「ちゃくち、ちょっとたいへん」

少女は教えるようにレオナルドへ言う。
因みにスティーブンはやはり人間としてはアウトな顔色で口元を手で押さえつつ、ブツブツとあらぬことを呟き始めている。
“あの時の”とか“触手、触手が”とか“目が、目、目が……”とか、先ほど正気に戻った目も、まだ何処かへイっている。どうやら蝶を包んで弾け飛んだ触手を見て、正気を保てなかったらしい。レオナルドはそんなものを見たような気がしたが、記憶に残っていない。
少女はそんなスティーブンを気づいているのか気づいていないのか、ただレオナルドへ注意を促した。

「おちる、しょうげき、きをつける」

おーけー? と確認してくる幼女に、レオナルドは数秒唖然とした。
だって、あまりにも普通なのだ。普通の女の子が、大丈夫かと聞いてきている。
これだけ見れば、微笑ましい光景だ。
ただ、現状落下中で、あと少しで地面へ落下する。そして、その幼女の背からは大量の“何か”が蠢いていて、仲間たちを捕えている。
レオナルドは、これは夢なのだと思うことにした。どこからか夢なのかはわからなかったが、少女と会ったことは夢でなければいい、と思う。
ただ、返事をしないのは可哀想だろうと、オーケー。と返したレオナルドに、少女はニッコリと笑った。



ヘルサレムズ・ロットに衝突音が響き渡る。
そうして“何か”を背中へと収納させた少女は楽しそうに言う。

「うん、みんなぶじ。おーけー!」