『■■□■■』
- ナノ -



? “なべての無限の中核で


いやーまさかパソコンしてて寝落ちしたら自分の身体が良く分からない生物になってたとか信じられませんね!
時間としては恐らく千年前とか百数十億年前とか、そういう良く分からない年月よりもっと過去で私は人間だった。極々普通の一般人で、性別は女性。パソコンと漫画が趣味の一般的なオタクで、社会人になって世間の荒波にもまれていたフツーの人間だった。それがどうしたことかパソコンでいつもの通りサイトや動画を漁っていたら疲労の為に寝てしまって、起きた時には人間の身体ではなくなんだかタコみたいなものになっていた。でもタコにしては身体が大きいし見たこともない場所だし言葉は喋れなくなってるしで意味が分からなかった。ここでま言えば分かると思うが、というか最初から言ってしまっているようなものだが、私は人間ではなくなった。言うなれば……神様?

と言ってもこの世界には神等というのは結構たくさんいて、私もその中の一つにしか過ぎない。
しかもその神は皆万能ではなく、万能のように見える神もいるにはいるが、全知全能という言葉を当てはめるのは小首を傾げるような神たちだ。
例えば神は神でも他の神に平気で殺されるのもいるし、神ではない他の生物に殺されるものもいる。
つまり不変ではない、永久ではないものにも“神”という名称が使用されているのだ。
そう考えると神という言葉が軽く扱われすぎているが、しかし神という括りにしないとその生物は強力過ぎるし理解しがた過ぎる。そういった意味で神という言葉は氾濫しているし、私も神の一員になっているわけである。
身体は多分山より大きいし、寧ろ巨大にしようと思えば地球を覆えるぐらいには成れると思われる。
触手も自由自在に動かせるし、通常の大きさでも何千万本もの触手が身体からは生えている。そして身体は煮立っているようにぐつぐつと泡が噴き出していてさえいる。
いやしかし随分な身体になってしまったものである。最初の方は混乱して暴れまわってしまって、良く分からないうちに真っ暗な良く分からない空間に押し込められてしまった。その際に色々壊してしまったような気がするがもうはるか彼方の過去の話なのであまり深く考えていない。そもそも覚えていない。
それにしても普通の一般人だったころの記憶は鮮明に覚えているのだから面白い物である。
いや、そういえばある時ちょっとしたことを忘れてしまっていて、もしかしたら全部忘れてしまうのではないかと不安になって、忘れたくない。って思った際から忘却が止まったような――まぁいいか。

暴れてからこの空間に押し込められて、随分と長い時間が経った。
というか、この空間から外に出たことがない。理由は分かる。私はこんな体だから外に出た瞬間にいろんなものを壊してしまうのだ。それは自分でもなんとなく分かる。
こう、あるものを全て壊してしまうような――そんな気がするのだ。たぶん外に出てこの身体ではしゃいでしまって地球滅亡とかそんなんだろう。
だから私は大人しく閉じ込められたままでいる。しかし閉じ込められてから数千年とか数億年が経過している間、勿論暇だ。極々平凡な精神を持っている私としてはそんな長い時間何もすることがなかった暇過ぎて狂ってしまう。この身体になってから精神が不安定になることは不思議と一番最初に暴れたころからないのだが。
そんな暇過ぎて死にそうな私であるが、定期的に人間の形をしていない何かしらが色々な事を教えに来てくれるし、周囲では煩いぐらいに人間でない中々に見ていられない形をした生物が蠢きながら太鼓と笛を鳴らしてくれている。でも後者は生物は生物でも意思はない。私は軽く話しかけようとして触手で触れようとしたら逃げもせずに楽器を鳴らし続けながらプチッと潰れてしまったのだ。しかも一体ではないので、周囲が何か反応するかと思ったら楽器を鳴らし続けているし。なので私はその生物たちを人形か何かと思っている。じゃないと一体殺してしまったことになるし。心の安定大事。
そして前者の外の事を教えに来てくれる生物だが、その生物のお蔭で私は外の世界の事を色々と知れている。と言ってもその生物が教えてくれるのはどの神が死んだとか戦ったとかそういうことなので、面白いかと聞かれればそんなことはない。
でも新しい話を聞けるのは嬉しいことなので、色々聞かせてもらっている。それで暇過ぎるとその生物に対して意味もない抗議をしてみることもある。生物は人形と違って私の触手を避けるし、私が騒いでも聞くような姿勢を取ってくれるので有難いのだ。勿論私は人間の言葉を操っていない。
大体は「何か楽しいことを!」という内容がほとんどなのだが、その生物がそれを聞き届けてくれたことはない。それでも話を聞いてくれるだけで嬉しいので文句はないのだが。
でも時折この生物は言葉には出さないが私の事を馬鹿にしているような態度を見せる。なんとなくの勘なのだが、たぶん間違っていない。そういう時は触手を振り回して追い出している。誰が白痴だって!? という話だ。勘だけど。

そんなこんなでのんびりまったり神ライフを送っていると、久しぶりに情報を持ってきてくれる例の生物がやって来た。生物は言語と言えない不気味な音を操って私に起こった事を伝える。
それを聞き取れてしまう私も私だが、内容を知って私は驚いた。
私が存在している所は一般的に言う異世界という場所だ。そしてその異世界の中でもまた特殊な、私がどれだけ暴れても周囲に迷惑をかけない闇の中。
しかし異世界と言うのだから違う世界も存在する。つまり、私が住んでいた地球みたいなところも存在するわけである。その知識は元々あったのだが、その生物の話によると異世界が普通の世界に融合しようとしたらしい。
なにそれやばいじゃん。普通の世界の人たち死んじゃうじゃん。
この異世界には神と称される者たちが大勢いる。それは一つ動けば人が万が死ぬという輩ばかりで、普通の世界に降り立ってしまったら、それだけで世界終了のお知らせだ。
一人焦りながら話を聞いていると、融合をしていたのだがどうやら地球側の者たちによって融合が止められたらしい。凄い! 人間も捨てたもんじゃないな!
感動しながら聞いていたが、融合地点であった一部の都市は壊滅したようだった。しかし即座に創り変えられ、異界と一部融合したような形になっているらしい。
なにそれ楽しそう。というかいいのかそれで。異界との全面戦争とかにならないのか。

色々と突っ込みたいこともあったが、とりあえず普通の世界も滅亡していないらしいので、一安心である。
私は人間じゃないけど普通の世界の味方だ。愛着がある。なので本当に世界の危機なら助けに行きたくもあるが、この姿であるし助ける前に壊滅させてしまいそうで恐ろしい。

にしても人間か。この姿になってからめっきり見ていない。
知識だけで人間も覚えている姿のままだと思っているが、もしかしたら違うかもしれない。
神並に強かったり、氷を出せるような人間もいるかもしれないな。超能力者とか。ロマンだなー。
人間に久しぶりに会いたいなぁ。世界も融合したし、会えたりしないかなぁ。

そんなことを考えていれば、いつの間にか生物は消えていた。
あれ、いつもは私の要望を聞いてくれるのに。さすがに世界融合してるし忙しかったのかな?


少し時が経って――と言っても多分数年は経っている。時間の経過の考え方が可笑しくなってしまったのは随分と前のことである。
太鼓と笛の音を聞きながら、私はいつも通り空間に漂う様に無意味に身体を泡立たせ触手を動かしていた。あっ、楽器鳴らしてる生物に当たってしまった。あー一匹潰れちゃったなぁ。
ちょっと反省していると、いつもの生物が登場した。
やはりいつ見てもグロテスクな生物であるそれが、何かを空間に放り出した。
えっなになに、なんなの。初めてだなこいつから何か貰うの。

それはとても小さくて、ゴミ粒のようだった。しかし闇しかない空間で不自然に光るそれは、よくよく見てみると細長い形をしていた。
もっとよく見てみると細長い物からもっと細長いものが伸びていた。
更にもっとよく見てみれば、それは四肢のついた人間だった。

ふぁあああああ!!?? 人間!!?? ニンゲンナンデ!!??

思わず触手が蠢き、周囲の楽器を吹く生物たちを一斉に全て潰してしまう。
やべ、焦り過ぎた。落ち着け私。
やはり、何度見てみても人間である。しかも――しっかり見てみると、目の部分怪我してないか?
血塗れになっているようである。っていうかこれ生きてるの? 死んでそうなんですが。
連れてきた生物を見てみると、不思議そうにこちらを見られる。えっ、なんで不思議そうなの。

何か思い当たる節はないかと考えてみて――そういえば前回来た時要望を聞いていなかったなと思い至った。……もしかしてあの時、人間に会いたいとか思ってたからそれを要望だと勘違いしたとか……?
ま、マジかー! やべぇ、こりゃあやべぇぞ。私のせいじゃねぇか。
それにこの人間もここにいたら死んでしまいそうだし。どうしよう。

困って人間を連れてきた生物を見てみれば――もうそこにはいなかった。

……帰りやがったよアイツ!! 用だけ済ませて帰っていきやがったよ!!

一人残された私と死んでいるのか生きているのか分からない人間。
……ほんと、どうしろっての。