? ■■■■■” にしてもクラウスは本当に人間なのだろうか。 目を閉じたまま的確に私の居場所を察知し、そのまま攻撃を加えてスティーブンだけ助け出すとか。 怖い怖い。 などと思いながらずるずると二人がいる場所から撤退する。 勿論二人がもし目を開けてしまっても大丈夫なようにだ。 真っ二つにされた私だが、生きている。というか真っ二つにされても傷の一つの内にも入らない。 後退された先で一つになって、いつも通りの姿に戻る。というか泡と触手だけでいつも通りというかなんというか。 再会を喜んでいる二人だが、警戒を解いてはいない。 そのままクラウスが前、スカーフェイスが後ろという息の合った戦闘体勢を見せる。 が、スカーフェイスがクラウスに声をかける。 「クラウス、たぶんこいつは、攻撃をしてこない」 「なんだと?」 「……確証はないが」 そうだよ! その通りだよ! 誰が好き好んでキャラを殺そうとするもんか! 闘った瞬間に相手が死ぬって分かってるのに戦闘なんてしません。色んな意味で怖い。 なので、そういってくれたスカーフェイスには感謝だ。 私の言うことも、信じてくれるだろうか。 『みみ、ふさぐ』 「っ!?」 「クラウス! 耳を塞いでくれ」 「し、しかし」 「大丈夫だ」 スカーフェイスがクラウスを説得してくれている。ああ、スカーフェイス! こんなにも信頼してくれて! 私は感無量だよ!! とまぁそんな感傷は置いておいて。 言った通り耳を塞いだ二人を確認して、ずっと黙って事を眺めていたニャルへ話しかける。 ニャル。この二人安全に元の世界まで連れて行ってくれない? 面倒とか言わないでよ。いいから。 あ。道中で手を出したりしちゃあ駄目だからね。 じゃないと――うーん、こ、殺す、とか? ニャルに二人を安全に連れて行ってほしいと頼んでみると、少し渋られたが了承してくれた。ありがとうニャル! 相変わらずきもいね! 私も人のこと言えないけど! しかしニャルもなかなかお茶目な所があるので、道中にニャルがちょっかいを出さないように試しに釘を刺してみたら、ニャルがいきなり震えた。なんでだろう。 触手で二人の肩を叩いて(クラウスがめっちゃ吃驚してた)、耳から手を退けてもいいと伝える。 おそるおそるといった風に手を耳から離した二人に、続けて言った。 『ごえい、つけた、かえる、へぃき』 「……そうか」 クラウスは私の声を聞いて痛むのか頭を抱えて再び耳を塞いでいるが、慣れたスカーフェイスは言葉を返してきた。 ……さて、そろそろいいだろう。お別れの時間だ。 彼も分かっているのか、目を閉じ、ローブを羽織りながら私の方を向いている。 一ヶ月か……短い様で長かったな。こんなにも充実した日々を過ごしたのは何千年ぶり、何億年ぶりだったのだろう。 寝落ちしたら化け物のような神になっていて、この空間に閉じ込められてずっと無意味に時間を過ごしてきた。太鼓と笛の音を聞きながら、ニャルの話を聞きながら、私はずっと何もしてこなかった。 でも、彼が来ていろんなことをした。ニャルに頼めば色々なものを用意してくれると分かったし、そもそもニャルに名前を付けたのだって、彼がいてくれたおかげだ。人間と話せるように発生の練習をして、死なせないように頑張って治療をした。私の知らなかった力も知ることが出来た。 行っちゃうのか。悲しいけど、嫌だと思ったらいけない。 彼は元の場所へ帰るべきだし、寧ろ一ヶ月も彼と関われた幸運に感謝しなければいけない。 『すかーふぇいす、ばい、ばぃ』 「……あぁ」 スカーフェイスが神妙な表情をしている。 ローブに隠れて上半分は見えないが、言葉を発した後に閉じた口元はどこか固い。 「君は……」 躊躇うように彼は口にした。 「寂しい、のか?」 ……寂しい。 そうか。なるほど。確かにそうだ。 寂しいなぁ。また誰もいなくなるのか。 太鼓を鳴らして、笛を鳴らして、そういう生物はいる。今は一ヶ月前に私が全滅させてしまっていないけど、たぶんそろそろどこかしらから出てくるだろう。 ニャルもいる。でもいつもいるわけじゃない。何十年もざらにいなくなる。 スカーフェイス。いなくなっちゃうのか。また一人になっちゃうのか。 『うん』 寂しいよ。 だから、自分から手を引こう。じゃないと帰れないしね。 私は触手を伸ばさないし、二人を中に閉じ込めたりしない。一人は寂しいし、闇に残されるのは辛いけど、二人の活躍が私は好きだからね。 『ばぃばい』 私はずるずると二人から距離を取った。 会話をしてくれてありがとう。信頼してくれてありがとう。 ばいばい。もうここへは来ちゃ駄目だよ。 二人はもう一人、人型の何かに話しかけられ、そのままこの闇の空間から出ていった。 スカーフェイスは最後に一瞬立ち止ったが、振り返らずに去っていった。 ――ばいばい。 って、え。あれニャル? え、あの人型ニャルだよね? ニャルなに普通に人型になってんの? え???? 前 次 |