? 果しなき魔王 しかし、彼をどうやって帰そうか。 それが問題だ。ほぼ一ヶ月ほど中にいたスカーフェイスだが、怪我も歩けるぐらいにはなってるし、目も治った。それにこれ以上密閉空間にいるのも辛かろう。 『すかーふぇいす』 「なんだい」 『そと、だす、ほぅほ、みつけ、る』 「!」 彼は驚きに背を正していた。それから神妙な顔をし、私に問いかけてきた。 「いいのか、君は」 うん? いいのかって、何か悪い事でもあるのだろうか。 そりゃあ話し相手がいなくなるのは悲しいし、もう人間に会えなくなるのかと思うと泣きたくなるが、でも彼は返さなければならない。そうじゃないと私の大好きな世界が回らなくなるし、スカーフェイスが可哀想だ。 『い、い。まって、て、しんぼう、すこし』 「……分かった」 頷いた彼に、思わず触手を頭に乗っけて左右に揺らす。 つまり頭を撫でたわけだが、やった後に直ぐに正気に戻った。 ヤバい、本格的に彼をペットとして見始めている気がする。早めに、私の為にも早めに彼を元の場所に帰さなければ! その場から直ぐに視点を変えて、早速ニャルにご相談。 ニャルーニャルニャルー。 お。来た。いつも早いね。それでさ、聞きたいことあるんだけど。 うん? 何? 客? 何それ、そんなの初めて―― ニャルと話していると爆音が響いた。 驚きに唖然としていれば、闇に包まれていた空間に白い罅(ひび)が入っているではないか。 そして再びの轟音。その罅は一気に広がり――そして砕け散った。 驚きのままその砕けた空間を見る。そこには白い外の空間と――一人の男がいた。 灰色のローブを着ている。全身を覆うようなそれは、顔の半分までも隠しているが、口元から見える下顎からの犬歯。そして突き出している左の拳。そうして付けられている十字架のナックル。 ――クラウス・V・ラインヘルツ! 「私の仲間を返していただきたい」 ってなんで話せるんだこいつ。ここ空気無いと思ってたんだけど。 しかしよくよく見てみれば、彼の羽織っているローブには黒い線で大量の魔方陣のようなものが書かれていた。なるほど、それのお蔭か。 そして目を覆っているから私を見ていない――つまりこの姿を見て頭が可笑しくならないと。 しかし、返していただきたいって、そのまま返しちゃっていいのかな。 だって空気あるか未だに分からない空間に、生身ではいどうぞってやっちゃったらスカーフェイス死んじゃうんじゃないか? 一人自問自答していると、彼の拳がぐっと奥へ引き絞られた。 えっ、えっ? お、おいおい。もしかして。 「返さないのならば、取り戻すまで――」 ちょ、ちょちょちょっと! 待って! 待ってってば! 今あなたのローブ参考にスカーフェイス分の作るから! 待ってってば!! 咄嗟に声なんて出ない。出ても脳髄をシャッフルあれだけだ。そんなことをしてクラウスの頭を破壊なんてしたら一生後悔する。 でもこのまま戦闘に持ち込んでしまって触手で対抗していたら、いつしかローブが落ちるかもしれないし、誤って私の泡(あぶく)がクラウスにでもかかったら、溶けてしまう可能性だってある。 ああ、もう!! 駆けだしてくるクラウスを見ながら、私は必死でイメージした。 ローブ。あのローブだ。この空間にあって息も出来て発狂もしない。魔術の品。 ――守ってくれる。 ――人間を狂気からと死から。 ――魔法のローブ。 バサリと中から音がして、それがスカーフェイスの上に被ったのが見えた。 よし、これで――! 「111式 十字型殲滅槍(クロイツヴェルニクトランツェ)」 身体に巨大な十字架が突き刺さる。 まるで刃物のように身体を引き裂いたそれは、一軒家大だった私の身体を易々と真っ二つにした。 そうして中に作っていた空間も露わになる。 「スティーブン!」 「クラウス!?」 邂逅を果たした二人は、瞼を閉じたまま互いの名を呼び合った。 前 次 |