『■■□■■』
- ナノ -



? あえてその名を口にした者とておらぬ


無理でした。
頑張って、頑張りまくりました私。
でも、出来たのが煮立つ球体か大量の棘がついたぶにぶにとした何かなのだ。無理だ。どう頑張っても人間が生きている間にしっかりとしたものを作れる気がしない。
どうするべきか。

困ったときのニャル様ですね分かります。


ニャル、ニャル!
あ、来た来た。あのさ、眼球ってどうやったら作れるかな。
なんでそんなことをって、いやまぁ人間の治療に……。
無駄なことじゃない! いいから教えて!
……え? ……そうなの?


スカーフェイスことスティーブンが寝静まった頃。
そろりそろりと触手を伸ばして彼の目元へ触れる。確かに眼球の丸みはなく、瞼がへこんでしまっている。
包帯の端を持って、彼が起きないように包帯を解いていく。少しだけ頭を浮かせて、するすると――。

「何してるんだ」

ばれてーら!!
驚いて動きを止める。どう説明しようか迷ってあたふたしていると、彼が一つ溜息をついた。
な、なんだろう。凍らせるのは駄目だよ。あれ血液使うし、折角回復した体力を消費するのはよくない。

「……好きにすればいい」

えっ。

『い、ぃの』
「抵抗したとしても、君に阻まれるだけだ」

まぁその通りなんですけど。
無理やりってのが嫌だから、なら意識のない内にやってしまおうと思って寝たのを確認して動いたのだが、あまり意味はなかったようだ。
それでもちょっと申し訳ない気分になりつつ、了承も得たので包帯を解いていく。

「……治してくれるのか」

好きにされるままの、スカーフェイスが固い口調で言った。
小さな声だったそれは、しかしどこか懇願しているようで、ちょっと悲しい気分になった。やっぱり辛かったよね。目が見えないの。そうは見えなかったけど、平気そうに風にふるまっていただけなんだろうと思う。

『ぅ、ん』

だから、不安だけど私は肯定した。
成功するか分からないし、ニャルも抽象的なことしか教えてくれなかったから。
でも、その為に私は尽力しよう。

彼の傷は潰れた眼以外、ほとんど治っていた。
と言っても、入院は必要な身体だが、重体とは言えなくなっていた。
本来ならばもっと長い時間が必要だったろう。食事をするようになったからとか、そんな簡単な理由じゃない。もっと非科学的な、魔術めいた、魔法めいたものがあったのだ。
それをニャルに聞いて分かった。

『で、も、め、ひらく、だ、め』
「何故?」
『せぃ、しん、こわれ、はい、じん』

本当なら意識のないときにやって、包帯を巻いて起きた時に忠告しようと思っていたのだが、この状況だと最初に言っておかなければならない。
そして、これを破れば、彼は人として終わる。
スカーフェイスは少し黙った。そりゃあ、失った眼が治ったらすぐにでも開きたくなるだろう。でも駄目なのだ。それをしたら私を視ることになる。彼は人間だ。普通の常識もある。中で一ヶ月近く過ごしたって、それは致命的だ。実際に視覚を通して理解してしまえば、彼はもう帰ってこれないだろ。正常な意識の中に。

「……分かった」
『あり、がと』

強く告げた彼を信頼しよう。彼が私に目を診る事を許すほど信頼してくれたように。
包帯を全て取り払い、中身のない目元へ触れる。
瞼がへこみ、薄く中身の見えているそこはなかなかにグロテスクだ。
目元は元々潰されていたせいか青あざが出来ている。
纏めて治してしまおう。大丈夫。私だって神の一員だ。

――きっと彼の目玉は綺麗だ。
――白眼が綺麗に光を反射して。
――灰色に少しだけ赤を足したような綺麗な虹彩だ。
――潰れて私が取り出した。でもそこにはそれがあった。
――なら元に戻るべきだ。
――元に戻れ、そこに還れ、あるべき姿に。

……どうだろうか。それっぽく願ってはみたんだけど。
そっと触手を覗くと、驚いた。
そこには膨らんだ瞼があった。瞼の下には、確かに眼球が戻っていた。

す、すげー……本当にどうにかなった。神様すげー。
ニャルに眼球を治したいと言ったら、願えば叶うと言われた。それは私が出来て当たり前のことだし、創造と破壊は私の得意とするところらしい。ならば、どうして作ろうとしたらできなかったのかと思えば、恐らくだが、一から作り出そうとしたからだろう。原型があれば、イメージを強く持つことが出来れば容易い。
そう言われたものの。本当にすぐさま出来てしまった。イメージ凄い。私凄い。

「これは……」

スカーフェイスが驚きの声を上げる。
彼自身も目があることを認識したようだ。目を開けないのを確認しつつ、私は一人満足していた。