『■■□■■』
- ナノ -



? 餓えて齧りつづけるは


寝落ちしたら変な化け物になってたと思ったらトリップだった。
何を言っているかわからねーと思うが――本当に分からない。どうしてこうなった。
にしても神としてトリップか。いやぁ豪華だなぁって豪華なわけあるかぁ! 人間が良かったわ! 頗る人間が良かったわ! 血界戦線大好きだよ! 助けて良かったよほんと!
しかし私はスティーブンに触手プレイとかやっちまってたのか……喜べばいいのか土下座すればいいのか分からんな。

しかし、ここで問題が発生する。
彼は血界戦線の主要キャラである。彼がいないともしかしたらレオが神々の義眼を狙われて殺されたり、クラウスが吸血鬼との闘いにおいて敗北することがあるかもしれない。
そんなことになったら血界戦線自体、作品として立ちうかなくなる。
物語の中でスティーブンが生贄に連れ去られたという話はなかった。つまり、この事態は想定外の可能性がある。そうなると、彼がいない間の物語の中で、死人がでるかもしれない。
スティーブンという人間はかなりの戦力で、対吸血鬼戦でも活躍するし、一般的な世界の危機でも頭脳と戦闘力を遺憾なく発揮している。
スティーブンはあの世界に必要な人間だ。

ヤバい。やばいぞ。早く帰さないと。
焦るが、方法が分からない。だって私だって出たことないのに。でも、なんとなく分かるが、脱出しようと思えばこの空間を破壊して外に出ることが出来る気がする。勘だけども。
だが、そうするとこの身体のままヘルサレムズ・ロットへ往くことになってしまう。
さて、私の今の姿を見て悲鳴を上げない人類はどれほどいるか。ぶっちゃけ私の姿を見て正気を保っている人がいたらその人は狂人であると思う。それほどにグロデスクで、悍ましくて、腐肉の塊を煮詰めてもこのようにはならないだろうという外見なのだ。自分では慣れたから別に気にしてないんだけど。
煮立っているように泡が噴き出しているし、そのせいで蠢いているように見えるし、その色合いは鈍色だったり金色だったり黒色だったりと目を焼くような変化と色合いをしている。しかも泡が弾ける音は生物の悲鳴のようであるし、それがぶくぶくと絶えず続いているのである。更に触手も血管が蠢いているかのようであるし、大きい物になると触手から更に触手が分かれていてそれが自由自在に振り回されているのだ。
言葉で表現できるのはこれぐらいで、実際見てみたらその気味の悪さにCGと疑うだろう。しかし偽物ではなく本物。目の前に映っている恐ろしい化け物なのだ。存在している。こんなものがこの世にある。
それだけでも頭が千切れるほどなのではなかろうか。いや、個人的な見解なんですけどね。

なので、彼の目が潰れていたのはある意味で幸運だった。
治せないのは申し訳なかったけど、中にいてもし私の姿を見ていたら――たぶんそもそもスティーブンという人の人格は崩壊していたのではないだろうか。
うう、恐ろしい――って、あ。

スティーブンの目、潰れちゃってるんですけど。


おうわぁあああああ!! えっどうすればいいの!!??
ヤバいどころじゃないよ! 隻眼ならまだ良かったかもしれないけど、両目とか! 盲目キャラでも戦えるキャラいるかもしれないけど、世界の危機救うとなると両目無いのヤバくね!?
ヘルサレムズ・ロットの医療技術って潰れて既に取り除かれてる目を再び作り直すことってできるの!? ……やばいぞ、凄くやばい気がしてきた。


それから数日。私は必死で変化能力の鍛錬をしていた。
思い付いたのが、私の身体を変化させる力で目玉を作ってスティーブンに移植、ぐらいしかなかったのである。
でもどう頑張っても出来るのが球体に棘が大量に刺さっていて謎の液体を垂れ流している物体だった。
もう駄目だ。どうにもならない。

「……最近は静かだな」
『……め』
「め……僕の目のことか?」
『なお、す……がん、ばる』
「頑張るって、どういう……」

その日はそれだけ話して視点を切り替えて眼球づくりをしていた。
彼はこの世界に必要な人材だ。そしてその眼も大事なものだ。
レオの神々の義眼とかそいういうのじゃなくて、彼が彼として物語を歩むうえで。

でも、この三週間で、すっかり私は彼に情が移っていた。
人だから助けた。そして警戒を解いて一応は信頼してくれた。名を教えてくれた。
初めての人だったのだ。ちゃんと話して、毎日が楽しい。
今までは数百年何てあっという間だったのに、彼が来てから一日をしっかりと認識するようになった。
だから、治したい。治してあげたい。