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▼ お家デート

今日、実は虎徹さんの家にお邪魔させてもらうことになっている。
勿論無理やりではない。ついさっき「あ、あのさ。これから用事とか、あるか? な、なかったら、その、俺の、家に……や、やっぱりなんでも」「行きます」という会話があったためだ。虎徹さんの可愛らしい声と言葉を遮るのは心苦しかったが、折角誘ってもらったのに行かない手はない。無理やりにでも行きます。

家にまで案内してもらって、中に入ってみればとても綺麗に整頓されていた。
酒瓶とかも転がってないし、いや、当たり前といったら当たり前なのかもしれないしれないが。
ああ、初家デート! 嬉しい! めっちゃ嬉しい!

「バニーちゃん」
「なんですか、虎徹さん」
「お、俺の家、どっか変か……?」
「えっ、どうしてですか?」
「さ、さっきから、凄いきょろきょろしてて……や、やっぱりもう一回掃除するから、また今度に……!」

初めての家庭訪問だったために周囲を観察しすぎたらしい。
ごめんなさい虎徹さん私が悪かったです初めて家に来れたのでテンション上がり過ぎて目に焼き付けようとし過ぎました!!

私の後ろに回って背中を両手で玄関へと押し始める虎徹さんに愛しさを感じながら、動かないようにふんじばる。やはり、ヒーローである虎徹さんなので、力は強い。押し出されそうになるのを耐えながら、くるりと身体を回転させた。

「うわっ」
「はい、捕まえましたよ」

急に支えを失くした虎徹さんは、そのまま私の胸に飛び込んでくる。
それを抱き留めて、笑いながら両手を背中に回せば、前髪の隙間から真っ赤になった虎徹さんのおでこが見えた。

「ご、ごめっ」
「ごめんなさい」
「うえっ」

慌てて離れようとする虎徹さんに、謝罪を送れば、可笑しな声が帰ってきた。
それに笑って言葉をつづける。

「虎徹さんの家に来られたことが嬉しくて、思わず子供みたいにあちこち見てしまって……失礼でしたね」
「そっ、そんなことない! あの、俺、片付けたりが、苦手だから……一応頑張ったけど、まだ片付けられてないところ、あるかもって思って……」

つまりそれは私の為に苦手な片付けまでしていてくれていたということですね。
そしてそれなのに誘うのが苦手な虎徹さんは頑張って誘おうとしたけど、やっぱり止めようとか思っていたんですね。なんていじらしい……!

このまま抱きしめたままで居たかったが、虎徹さんがのぼせて倒れてしまうのでそろそろ手を離さなくてはならない。どうやら虎徹さんは私の顔を見続けたり手で触れ続けていたりすると、恥ずかしがってキャパシティを超えてしまうらしく、倒れてしまうのだ。
最近は気を失った虎徹さんを看病するのが至福なのだが、目を覚ました虎徹さんが申し訳なさそうに頭を下げ続けるので、虎徹さんが倒れてしまわないように私の方も気を付けている。
だからといってスキンシップを少なくするわけじゃないですけどね!

「いいえ、凄く綺麗ですよ。びっくりしました。それに、私の為に片付けてくれたなんて、嬉しいです」
「ば、バニーちゃん」

虎徹さんが項垂れていた顔をこちらに向けた。
その顔はどこか縋るように私を見ていて、男性にしてははっきりしている大きめの瞳が笑みを浮かべる私を映している。
すると、虎徹さんは驚いたような顔をして、それから口を戦慄かせたかと思うと顔を一瞬にして真っ赤にさせた。

「えっあっちょ、虎徹さん!?」

と思ったら急に虎徹さんの身体から力が抜けていく、脱力した身体は立っていることが出来ずに膝を折り、支えるものがなくなった上半身は後ろへ反れていく。
思わず抱き留め、落とさないように一緒に屈んでいき、虎徹さんの上半身も支える。

「き、気絶してらっしゃる……」

床に座らせて、様子を見てみると、意識を飛ばしていた。
可笑しいな、さっきはちゃんと返事してくれていたのに。
色っぽく首筋を曝け出している虎徹さんを揺すり起こすなどできないので、私はそのままベッドがあるであろう場所まで運ぶために、虎徹さんを抱き上げる。勿論お姫様抱っこである。

「(そうだ、夕飯を作ってまっていよう)」

倒れてしまった理由は分からないが、気を失ってしまったものは仕方がない。
私から起こすことは出来ないので、夕飯でも作って待っていよう。
虎徹さん特製チャーハンを食べられないのは残念だが、また家にお邪魔させてもらったときに食べさせてもらえばいい。勿論また来ます来ますとも。

「(虎徹さん喜んでくれるかなぁ)」

冷蔵庫の品を見ながら虎徹さんの匂いがする家の中で上機嫌に料理を作り始める。


その後――虎徹さんが目覚め、平謝りをされ、宥めつつ料理を食べてもらい、倒れた理由が私の笑みということを聞いて、流石に虎徹さんを前に笑わないなどできないので慣れてもらおうと私の笑みをずっと見続けてもらうという訓練のため赤面し続ける可愛い虎徹さんがいた。

私も赤面する虎徹さんを見れ役得だったし、やっぱりお家デートは最高だと思った今日この頃。




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青狸さんリクエストありがとうございました!
タイバニは久しぶりだったので、なかなか難しかったです(;^ω^)
でも、やっぱり虎徹さんは可愛かったです可愛い可愛い。
私も虎徹さんの顔を眺め続けた……いえ、なんでもありません。
読んでいただきありがとうございました!


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