小説 リクエスト
- ナノ -


▼ 気になる未亡人は誰でしょう?

「フフフフフフフフ」

喉から漏れるのはどうしようもない喜悦からくる笑い声だ。
そう、僕は今とても楽しい。楽しさのあまりK・Kに聞かれたら銃の底で殴りつけられそうなレベルでにやけてしまっている。
だって、今から僕は――“私”になるのだから。

「スティーブンの女装とか誰得ーーー! 俺得ーーー!!」

家のクローゼットから取り出した女性用のワンピースドレスを取り出して鏡の前で一回転。
勿論家には家政婦として働いてもらっているヴェデッドもいない。自分一人だ。いつもなら稼働させている監視カメラも全部切って、窓も締め切りでどこからも人の目はない。
なんたってスティーブンは恨まれたり狙われたりしてますからねぇ。まぁ自分のことなのだが。

身体の前で固定させた真っ黒なワンピースドレスは丈が長く、大人っぽいデザインになっている。下の方に行くにつれて捩じりが効いており、足の長さを強調させる作りだ。括れもほどよく演出し、しかし胸のなさを配慮できるすっきりとした形。
ヒールがそこまで高くないパンプスに、緩くウェーブの掛かった黒のウィッグ。どれもこれも値段が張ったがこれも今日の為。

「気合を入れて行こうか」

化粧道具だって揃ってる。
やるからには徹底的に、今日の為だけに休暇をもぎ取ってきたんだからな!!
スティーブンの本気の女装、やらなきゃ損だろう!




通りに誰もいないことをしっかりと確認して外に出る。
監視の類もすべてなし。あったら全部氷漬けにして廃棄してやるが、その必要はなかったようだ。
いつもとは違う長い髪、風の通る足元、少々歩きづらい足元を気にしつつ大通りへと出る。
時刻は午後四時。ヘルサレムズ・ロットでなら、この格好でも違和感はない。
時折店のガラスで姿を確認して、おかしなところがないかを確認する。これだけなら、まるで彼氏とのデート直前の女性のようだ。

「ふっ、完璧だな」

まぁ声まではどうにもならないので、小声ではあるが。
長髪に薄化粧。いつもより少し高い身長に、ワンピースドレス。手持ちのカバンを持って、パッと見、自分がスティーブンなどと知り合いでも思わないだろう。声を出さなければ、完全に美しい女性だった。
やはり、元々が綺麗だと女装も映える! 家で写真会をした後だけど、これは見せつけなければならんだろう。
あれだ。夫を亡くした未亡人女性にしか見えない。憂いた顔が麗しい。

思い切りナルシストだが、この容姿だ仕方がない。寧ろこの容姿で自信がないとか言い出したら私が切れる。
死んで生まれ変わったと思ったらなんだか知っている漫画のキャラで、しかも好き放題やれるとか。最初は悩んだりもしたけれど、悩んでも仕方がないと吹っ切れた後は好き放題だ。私をこの体にした奴が悪いとしか言いようがない。

そんな私の休日は専らヘルサレムズ・ロットのリトルアキバかこうしたちょっとしたお遊びに費やされる。だってリトルアキバ天国だし、この身体なんだから楽しまなきゃ損だろう。どうして私が身体を日々鍛えてスリムにしていると思うんだ。このために決まってるだろう!
まぁ仕事の日もクラウスとかザップとかレオとかと絡んで一人で美味しい思いしてますけどね。

「さぁてどこに――」

行こうか。と口に出そうとした瞬間に、目の前に何かが降ってきた。
その何かは――異界生物だ。人間の形をしており、その腕を――腕をこちらへと伸ばしてきた。
咄嗟に手のひらを握りしめる。本格的にし過ぎて血凍道の靴も置いて着ちゃったんだよなぁ。などと思いつつ、爪で切り裂いた手のひらから出る血で相手を凍らせようとし――


「ご無事だろうか。ご婦人」
「―――」

口が呆けたようにポカンと開いて、言葉が出ない。
寧ろ、出なくてよかった。声を出した瞬間に、誰だかばれてしまっていただろう。
目の前に颯爽と現れたのはクラウスで、手を伸ばしてきていた異界生物は今や壁の染み。
相変わらずやりすぎだなぁと思いながら、目を瞬かせて、現状把握。
よくわからない異界生物、手を伸ばしてきていた、現れたクラウス。異界生物を撃退。言葉から察するに助けてくれたらしい。

こうも運命的な出会いがあるだろうか。と思いながら、どうにか笑みを作る。
そうすると、クラウスはこちらをじっと見た後に、焦ったように顔を硬くした。

「ご婦人、手に怪我を」

そうだ。と思い出してみてみれば、血凍道でどうにかしようとしていた跡がそのまま垂れ流しになっていた。
あーハンカチハンカチとバッグを開けようとしたときに、手を取られる。

「こんなもので申し訳ないのだが……」
「……」

いつの間に出したのか、ハンカチをその大きな手に取っていたクラウスが、私の手にそれを巻き付けようとする。
驚いて見つめていれば、慌てたように「も、申し訳ない。余計だっただろうか」と言い出したので、首を横に振った。
そうすればクラウスはそのまま手に高そうなハンカチを巻いてくれ、後できちんと治療をしてください。という。

「……」
「ご婦人?」
「……クラウスマジ男前惚れる……!」

あああああああ!! もうッッ!! ほんとっっ!! 惚れるからッッ!! かっこよすぎだからああああ!
内心悶えていれば、クラウスが「何か言っただろうか?」と顔を覗いてくるから、必死で首を横に振る。言ったけど、言ったけど! もう本当にかっこいいんだよもうッッ!
衝動のままバッグをごそごそと漁って、こういう時の為、というわけではないが、意思疎通が必要な時にと持っていたメモ帳とペンを取り出して文字を書く。

『本当にありがとうございます。喉が悪いので筆記で申し訳ありません』
「そうなのですか。いえ、こちらこそわざわざ申し訳ない」

返答を聞いて、再び書いて文字を見せる。

『お名前を聞いても?』
「ええ。私の名前はクラウス・V・ラインヘルツと。ご婦人は?」
『生江と言います。それと、主人はいませんよ』
「そ、そうなのですか。お美しい方なので、いるものかと」

お美しい!! ですよね!! 
内心ガッツポーズを決めつつ、いつもとは全く違う反応をしめすクラウスにドキがムネムネである。
そこで、ピンと来た。
メモ帳にがりがりと書いて、そのままクラウスに見せつける。

『Mr.クラウス。何かお礼がしたいのですけれど、お時間をいただけませんか?』
「む……しかし、当然のことをしたまでですから」

逃がしはしないぞ。
再びメモ帳に書き連ね、クラウスの前に差し出す。

『私がお礼をしたいのです。私の我儘を聞いてはくれませんか?』

さて、僕もクラウスとは長い付き合いになる。
女性にここまで言われて、この後に用事がないとなれば、クラウスはどうするだろうか?
クラウスは一通り困惑した後に、口を開いた。

「しかし、Ms.生江は用事があったのでは」

ふむ。では。
メモ帳に言葉を書いて、さぁどうぞと見せつけた。

『用事よりも、Mr.クラウスと一緒に居たいのです』

一端引っ込めて、書いて。見せる。

『……駄目でしょうか?』






ライブラへの扉を開ければ、いつも通り誰もいない空間が広がる。
てきぱきと仕事の準備をして、ライブラでの一杯目のコーヒーを入れて一口含めば、仕事だという感覚が染みわたっていく。
にしても、いい休日だったなぁ。思い出しただけでもにやけてしまう頬を引き締めて、他のライブラメンバーがくるのを待つ。

「おはよう。今日は早いな、スティーブン」
「おはようクラウス」

カップを上げて挨拶をすれば、そのあとに何故かクラウスにじっと顔を見つめられる。
それにどうしたのかと問いかけてみれば、少し口ごもった後に。

「昨日、君と似ている女性と出会ったのだ」
「へぇ、僕と」
「ああ。美しい女性だった」

それは遠まわしに僕をほめているのかな。と内心身もだえつつ、続きを正す。
クラウスは自分の事務机に腰かけ、続きを口に出さずに黙り込んでしまった。

「……もしかして、惚れられちゃったとか?」

そんなわけはない。いや、僕としてはもう惚れるわ!(半ギレ)な感じではあるが、流石に女装して好きですとかいうほど馬鹿じゃない。女装してクラウスとデート(ハート)をしているぐらいだからすでに馬鹿ではあるが、流石にそこまでやらない。
なのでちょっとした冷やかしである。これで何か言いにくいことを口に出せればいい、ぐらいの。
もしかして女装がばれてるんじゃ。という考えも、ちょっとだけある。まぁばれても「今度の任務で必要だったから」で済ませるけどな! 副官って便利!
コーヒーを飲んでのんびりと答えを待っていれば、クラウスがゆっくりと口を開いた。

「その、私が……」
「うん?」
「……私が、彼女に、その、恋をしてしまったかも、しれないのだ」
「…………ごほっがはっごほごほごほごほ!!」

こ、これはッ、これは……まじか!
コーヒーを気管に詰まらせて激しく咳き込む私に驚いて、駆けつけて背中をさすってくれるクラウスだが、その女性、ここに、ここにいるんですが! それは!
いや、なんというか、こんなことになるとは。
背をさすってくれるクラウスに申し訳ない気持ちになりながらも、一通り咳をして、どうにか喋れるぐらいになった後に、クラウスを見やる。
そこには仲間を純粋に心配してくれる心優しい男がいた。
……うん。

「応援してるからな、クラウス!」

とりあえず面白くなりそうなんで、クラウス頑張ってくれ!
僕も応援してるから! 
さて、次のデートはいつにしようかクラウス!





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「ステ成主Bの休日の楽しみ〜夢のキャラ(自分)着せ替え編〜」
優柔不断さんに捧げます!
3つの候補の内の、こちらとなりました!
着せ替えをやっていたら、クラウスさんが巻き込まれました! スティ主酷い!
相も変わらずキャラ崩壊でした。もともとあまりキャラが定まっていなかったので、好き放題になりましたw
楽しんでいただければ嬉しいのですが、ちょっと心配です(;^ω^)
といってもリクエスト品はいつも心配ばかりなのですが( ;∀;)
楽しんでいただけることを祈って!
では、優柔不断さん、リクエストありがとうございました!

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