小説 リクエスト
- ナノ -


▼ さぁ、絶望を見よ

全てが終わった後。
そう、全てである。
私は――わたしは思い出した。
何を、というと、まぁ“全部”というのが正しい。
例えていえば、自分がずっと憑依していたと思っていたのが実は違っていて、女性として生きた人生はとっくの昔に終わりを告げていて、更に言えばその死の瞬間は絶望と狂気が蜷局を巻いていたという悲惨な最期であったりしていたわけだ。
ついでに例えば、その死してからそのまま強盗に殺された家族のもとへ行けるのかと思えば、そうでもなく。その強盗犯を殺してしまったせいか日頃の行いが悪かったせいかなんなのかわからないがアレクセイ・ディノイアという人物に“成った”こと。
そうして――そうして、この世界で亡くなる筈のものを救うのが役目だと勝手に誤解し行動し、その結果何も変わらず――寧ろ結論だけで言うのならば知っている世界よりも悪い結果を作り出した。
“私”の心臓は魔導器と相成り、それを成した評議会の傀儡に。部下は死に絶えデュークも友を亡くした。
私は――二度目の絶望を味わった。

目の前で部下が死に絶える瞬間、そして敵に仇討ちさえ出来ずに、原因を作り上げた評議会の手先にさえなった。

思えば人魔戦争で。
“そこ”で私は壊れていたのだと思う。
少女の時に自ら死を選んだ際に一度壊れて。もう一度体と役目を与えられて尽力し、そして全て無意味どころか最悪の結果を出し、今度は粉々に、木っ端みじんに壊れた。
部下が死んでいって、手を伸ばしても届かなくて、己の心臓が突かれた瞬間に――私の生きている意味を失った。
一度自ら命を捨てて、与えられた人生に使命を見い出して力を尽くしたつもりだった。
それらの全てが、全てが駄目だった。無駄だった。無駄で無駄で無駄で、それどころか惨状を作り上げて。
最後の部下があの砂漠で死んだとき、頭が吹っ飛んだかと思った。すべてが無駄だったと叩き付けられて、その場で死にたくなった。
そして死んだ。心臓を突かれて。

そうしたら、ああ、生きていて。
心臓には魔導器が埋め込まれていて。
更にそれを行ったのは評議会で。

壊れた何かが踏み潰されて、叩き潰されて、火にかけられて、鍋に煮えられ。
違う何かが出来上がっていた。
何かが出来上がったとき、私は気付いた。いや、きっと気づきから何かが出来上がったのだ。

私は、今まで無意味――いいや、“悪い事”をしていた。
私ごときが世界で亡くなるはずのものを救うのが役目だと、そんな大層な思い違いをしていた為に、こんな結果となった。
ならば――ならば、戻さなくては。全てをその通りに動かさなくては。
でなければ――でなければ、また悪い結果になってしまう。また死んでしまう、また亡くなってしまう、また私の所為で、大切なものが――私の大切な、大事な世界が、壊されて、しまう。

駄目だ。そんなことは絶対に赦してはならない。絶対に、絶対に。

そして

そして、大事な世界を壊した自分自身を、誤った選択をした自分を、赦しては――。



うん、まぁ。
そんなことはどうでもいいのだ。
そう、どうでもいい。
私のそういう後悔とか、本当にどうでもいい。
そんなの世間は知ったこっちゃないのだ。
誰も知らない馬鹿な一人の“私”の話。笑い話にも寝物語にもならない、馬鹿な男の話だ。
ずぅっと昔から、愚か過ぎてどうしようもないというだけ。

今。
今重要なのは、その愚かな黒幕が、どうして生きているかということなのだ。
だって私は死んだはずだろう。死ぬはずだろう。そうだったはずだろう。
ほら、ザウデ不落宮で。
ほら、あの巨大な魔核で。
全てに勝る兵器だと考え起動させた魔導器が星喰みという災厄を封印している装置であって、そんな決定的な思い違いをしていた為に世界を滅亡の危機に陥れて、無念のままに死んでいった。

そうだろう?
何故、生きている?
あれがストーリーだろう?
何故外れている? なぜ生きている?
ねぇ、なんで、どうして、それはダメだろう。

アレクセイ・ディノイアはあそこで死ぬ運命だった。
そしてそうなるはずだった。
そうならなければいけなかった。
世界を危機に陥れ、そうして多くの人々を陥れた大罪人は、ストーリーでも一般常識でも、死ぬべきだろう。
ああ、なんで助けたのだ、デューク。
酷い、酷いなぁ、デューク。
漸く死ねたと思ったのに、また生き返らせるなんて。




って、いうのをですね。
全て――つまり、デュークが人類の命と引き換えに星喰みを倒そうとしたが、それをユーリ・ローウェル達一向に阻止され、更に彼ら凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)によって星喰みが倒された後に、思い出したわけです。
もっと細かく言えば“その後に元騎士団長のアレクセイ・ディノイアの私室や私物整理をしている最中”に。
更に詳細に言うのならば“その際に己の心臓魔導器の制御装置を手に持った時”だった。



……さて、私の周囲には今現在、ユーリ・ローウェル一行がいる。
後処理なわけで、いまだ世界が救われて時間が経っていないために彼らはこうしてともに行動している。
ユーリ・ローウェル、姫様、カロル・カペル、リタ・モルディオ、ジュディス、パティ・フルール、フレン・シーフォそして……レイヴン。
ああーーーレイヴンさんじゃないですかぁあああ!! 
ああっ、あんなに生き生きとした目をして! もう彼の今の姿を見ているだけで物語通りに動いたかいがあったと思える! あんな外道に鬼畜に理不尽なことを散々やらかしたんだから、そうだよなぁ! 懸命に仲間のために動く若者たちと一緒に世界を回って、そして間違っている上司に見捨てられて裏切って、漸く生きることに向き合えて! っていうかそうでなきゃ私泣いてけどな! 寧ろ今は嬉しくて泣きそうだけどなッッ!!

イエガーもどうにか物語がずれない程度に調整して生きているし(彼らの会話で確認済み)、ドンもどうにか生きてるし(まぁ隠居にはなってますけど)ああ、私頑張ったなぁ!!
どうしよう。ザウデで感じた“私やり終わった感”がやばい。

そして手には制御装置が。
実はアレクセイ・ディノイア……基私の私室を捜索している中で出てきた小箱の中に入っていたものなのだが、どうやら旅の中で結構信用されてしまったらしい私の行動はあまり咎められることがなくなっていた(そんなに簡単に信じちゃいかんでしょう。記憶失ってるとしても。危ないからね! 大罪人だからね!)私は、記憶が失っている中でなんとなくふらふらとその箱に引き寄せられたわけだ。
まぁ記憶を失っているといっても不完全だったらしく、記憶がない中でも何処か違和感を感じていたりなんだりしていたが、ここでもそれが発揮されたわけだ。
そして手に取って、その箱を開け、現れた機械に恐る恐る触れた瞬間――全てを思い出したわけだ。


さぁて、ここで一つ問題がある。
実はですね。このまま極刑になればいいんですけど。
なぜか、私が極刑――つまり死刑にならない展開が起こりそうなんですよね。
ああ、そう。実は。
このたびの中で、中々不都合な事が彼ら(凛々の明星)に知られてしまったりしたのですよ。
私は最終決戦の時――というと誤解が生まれるので、対アレクセイ戦の時と言おう――の時に、“ドン・ホワイトホースは私の手で葬った”とか言っちゃったんですよね。
いや、だってドンを生きながらえさせるためにはパレストラーレの件の時に自害をさせないようにしなくちゃじゃないですか。でもベリウスが死なないと物語が停滞することは確実なのでそれは無理。流石にそこまでどうにかできない。
だからベリウスを物語通り偽情報をイエガーに流させて、ってなるとやはりドンも責任を取って死ななくてはならない。
そこでドンが自害する直前に説得してこちらが用意した隠れ家に隠れててもらったんですよね。
……いやぁ、何が大変だったって説得ですよね。もうベリウスが死んだのだからけじめはつけなきゃならんとかてめぇは誰だとかもう正論しか言わないからもう。
まぁ最終的には説得に説得を重ねてどうにか“ベリウスは死んだが生き返る”なんて適当なことを言って隠れてもらったわけなんですけどね!! いや、だってベリウス精霊として生き返るし。まぁそれがベリウスであるかというとそうではないのだが。
そしてドンが消えた後(隠れてもらった後)ドンが死んだと思わせる為にドンの武器と一緒にその場所を血まみれにして、私の息のかかったものを近くに置いて、異変を感じてやってきた者たちに“ドンは敵襲にあった”“押されていたが、ケジメとして自らその場で命を絶った”等となかなかどうして、え?それで大丈夫? な説明をしていただき、しかしどうにかそれが真実だと広めさえることに成功した。やったね! どうなるかと思ったね!!
そして最終的に、最後の一押しとして(と言ってもドンは死んだことになっていたが)私が殺したときちんと太鼓判を押したのだ。完璧!
でもまぁドンは生きているわけで。
そしてまぁ、世界を救う旅をしている中で凛々の明星たちがドンを見つけてしまったわけで。
あの時は記憶はなかったのに焦ったなぁ……無駄なところで発揮される第六感。しかし役に立たない。

それでですね……そこから妙な雰囲気が漂うようになってしまったんですよねぇ。
ほら、よくあるやん? 悪党が実は悪党じゃなかったとか……。
なんだそれは夢物語かそんなもの現実にはありゃしないんだよ私にとってはここはある意味二次元だけれども。

それでですね……まぁなんか姫様やフレン・シーフォやレイヴンがですね。
なんか変に頑張ってしまってですね。
なんかプラスで、実は胸に心臓魔導器があるのを知られましてね。

……なんだか生きて罪を償わせるべきだとかそんな話が出てきてですね。
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい勘弁しろよ。
って、まぁ今だったら思うわけですが。
記憶がない時は、別に死にたいとか思ってないわけで(なんとなく内心で生きる気力がないことは理解してはいたが)、それに対して何を言ったりということもなかったわけですが。
いやいやいやいやいやいやいやいや、駄目だろ。
何がダメって、全てがダメだ。
なんだその甘っちょろい考えは。いくら若いからっていってもそれは許されませんよ? っていうかレイヴン何言ってんの?
悪逆非道の鬼畜上司だよ? 君は何を言っちゃってるの? 神殿で君を生き埋めにした張本人ですよ? 
……まぁ当たり前だけどそこで死なれちゃ困るから爆薬の量を極力減らしてすぐに救援に行けるようにシュヴァーン隊の三人にはそれとなく神殿の情報を与えたけれども。それはそれこれはこれであるし。

それでですね。
現在絶賛捜索中の元騎士団長の私室なのですが。
実は、私がいなくなった後に評議会相手に立ち回れるように色々と用意してあるわけだ。
ついでに魔導器が使えなくなった世界のために、今まで培ってきた研究成果もともに。
評議会相手に心臓魔導器を切り札に傀儡にされていた私なわけだが、もちろんそのままでは置かなかった。色々な手段を使って心臓魔導器の制御装置を評議会の人間が持っているものとすり替えたり、評議会の不正を裏で掻き集めたりなんだりしていたわけだ。もちろんその中でどうにもならない奴をシュヴァーンに暗殺させたりもした。
なんて言ったってヘルメス式魔導器制作してたの評議会だったしね。なんだこの改変。すごくね?
そんな私の立ち回りが悪く希望ある部下をみすみす――ああもういいそんな話は。

私の後はフレン・シーフォが団長となる。彼は帝国を変えるだろう。新たな皇帝と共に。
しかしその前には必ず評議会が立ち塞がる。それは並大抵の壁ではないだろう。
――私と同じになっては意味がないのだ。だから、用意した。
世界も、できるだけすぐに復旧して欲しかった。魔導器が使えないというのは不便だろう。魔導器に代わるものが作られるのは早い方がいい。それに私の罪ばかりを肥やしていた技術が役に立つならば。寧ろ残さないのは更なる罪だ。

そうやって、溜めに溜めこんだものがそこにある。
もし、もしである。
その評議会の不正を示す書類や、技術が世界の役に立ったら。
というか立ってもらわないと困るわけだが。特に前者。
しかし、役に立ったらたったで――私の処遇はどうなるか。

これで……これで役に立つなんて保障されてしまった日には。
今でも妙な雰囲気なのに、もしかして――新しい未来の為に死刑はやめようとかあばばばばばばば勘弁!

今まで! なんの! 為に! 生きてきたと思ってるんだ!
この十年! 鬼畜最低行為を手に余るほどやってきたのは! 最期の為だった!
それが、一分一秒でも長引かせられるなんて認められるはずがない。

そうだ。認められるはずがない。
認めるわけにはいかない。

――罪人に相応しい断罪を。
――道を誤った愚者には終わりを。
――死した者たちと同じ場所に行けるとは思わない。もう、行きたいとさえ思わない。ただ――


「(死を)」

渇望する。と言っていいものか。
手に持っているカラクリをしかと持つ。
カチリ、と指に押され、それが一つ動いた。

仕組みは簡単だ。
手に入った直後から何度も最後の一手まで繰り返した。
これと同じことをレイヴン――いや、シュヴァーン、いいや、ダミュロンだろうか。彼がやっていたと思うと、感慨深いものもあるような気がしないでもない。
命の灯がしかと戻るまで、彼が最後の一手を引かなかったことを心から嬉しく思う。

カチリカシャリと動かしていく。
慣れた手順に手元は狂わない。さぁ、もう最後の一手だ。
何度、この最後の一つを動かそうとしただろう。
その度に、そんな資格はないのだと箱にしまい込んだ。
その資格は、全てを終えた後に漸く存在する。
全ての悪を背負い、そうして私という存在が物語通りに死ぬその瞬間。
漸く得られた資格。それだったのに、私は、わたしは、死にそびれた。
記憶を失っての旅、それは楽しかったように思う。
いいや、楽しかった。何も知らず、前世の喜ばしい記憶しか持たなかった僅かな時間はまるで最後に訪れた天国のようだった。
それでも死にたかった。
無意識に、分かっていた。死ぬべきだと。
それなのに、のうのうと生きていた。死にたいくせに生きていた。何もわからなくて、新しい世界が珍しくて、旅をしていくのが、だんだんと楽しくなって。

ああ、馬鹿らしい。
私はどこまで行っても愚か者だ。
そんな資格はとうの前に失っただろう。

「(終わりだ終わりだやっと終わりようやく終わるごめんなさい死なせて殺して終わらせて終わろうやっと終わりだ死ぬようやく死ねるどうして生きてた死のう早く終わらせよう何もかもを知っているくせにどうにもできなかった屑は死ね)」



さて。
今度こそ、おやすみ。








「大将!!」

「へ」

手から叩き落されたものを見て、喉からおかしな音が出た。
カシャン、とそのまま地面へ跳ね返るそれは、最後の一手が動かされないまま、そのまま地面へと張り付いた。

「なにを、してるんですか……!」

いや、何って。
ってか、レイヴン。そこにいたのか。
ちっとも気配が分からなかった。集中しすぎていたのか。

「死ぬ、おつもりですか!」

静かな、しかし煮えたぎるような怒声が響く。
それに冷や汗が流れる。
目の前の男は見慣れた死人のような無表情ではなく、確かな生きている人間の色を、その中でも苛烈な憤怒を携えて私を詰っている。
それは、勿論喜ばしいことだ。彼がこれ程までに“生きている”のは。
だが、しかし。
手から零れた命のスイッチを想う。
喉が引き攣って、視界の色彩が消えていく。

「……」

何か言おうとして、しかし口さえ開かない。
レイヴンは――いや、口調からすればシュヴァーンではある男は――私を鋭い目で見据えて動かない。
手を思い切り叩かれたせいで痛みが広がるが、それに更に頭が揺れる。

ああ、つまり。

「(死にぞこなった)」

しかも、また。

彼の眼には、怒りが宿っている。
しかしその表情は、怒りと言うだけには見ているものを切なくさせる。
つまり、どうしようもなく悲しみの色が灯っていた。
制御装置は床を跳ね、今ではレイヴンの後ろ側へと転がっている。
それを、目の前の男を押しのけて広い最後の一手を動かすのに必要な労力はいかほどか。
私を睨みつけて動きもしない彼は、私が制御装置を取ろうとして、それを許すか。


「――ねぇ、これ……!」
「これは、まさか……!」

元騎士団長の書類や備品を見ていた天才魔導士と騎士団長が声を上げるのを聞いて、視界から光が消えた。


さぁ、どうやって死のう。




***********************************



「「貴方はそれを知っているのだろうか」のその後」
天照さんに捧げます!!
リクエストありがとうございます!
といいつつ、これ、えっと、すいません。リクエスト通りにはいきませんでした( ;∀;)
えっとリクエストとすると、アレクセイ主の苦悩とか葛藤とかをユーリたちに。ということだったと思うのですが、なんか自殺願望主がイェイ死ねる死のう!って話になりました。レイヴンに止められましたが。
なんというか、この話を書かないと実際アレクセイ主がどんな気持ちなのかっていうのが自分の中でもよくまとまらないなと思い書きました。
しかしリクエストには沿わないので、もしかしたら続きをリクエスト品として出すかもしれません。
それかちゃんとした連載で書くかも……(ボソッ
ええと、言い訳が長くなってしまいましたが……(;^ω^)
天照さんリクエストありがとうございました!

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