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▼ 神は地に降りて

やってまいりました人間界ッッ!!
やっとこさ人間の姿(幼女だけど)に成って、ニャルに案内してもらいここまでやってきた。
異世界から人間界への道を辿っていく間、わくわくが止まらな過ぎてやばかった。ああ、これで私も人間の仲間入り! やっと元の種族に戻れた! ……というのは嘘だけど、油断すると背中から本体出そうになるけど、それでも人間として振る舞っていいというのは、本当に嬉しい。今までずっと弱小神様だったし、退屈に嘆くだけだったから、こうしてただの人として動けるなんて考えたこともなかった。
どれもこれも、スカーフェイス……もとい、スティーブンのお蔭だ。
この姿を見てなんていうんだろう。早く会いたいなぁ。

街並みをきょろきょろと眺めつつ、歩幅の小さな足で歩いていく。
ああ! 歩いてる! 私自分の足で歩いてるよ!! うわああもう死んでもいい! 違うスカーフェイスに会ってから!!
笑顔満点で歩くゴスロリ姿の幼女なんて、なかなか珍妙なのだろう。通行人(人と言っていいものかわからない者もいるが)からの視線を痛いほどいただくが、気にすることはない。今の私は無敵だ! 無双状態だ!!

ウィンドウショッピングを楽しんだり、出店を眺めて店主(異界生物)にタダでよく分からない食べ物をいただいたりしながら、ヘルサレムズ・ロットを闊歩する。
何をしても、何が起こっても楽しい。

例え、歩いていたら路地裏へ引っ張り込まれて、陰湿な笑みを浮かべながら貴方の血液はどんな味なのだろうかと言われても。


……いや、嘘です。楽しくないです。というかなんだこいつ変質者かそうなのかというかそれしかないおまわりさぁあああん! この人変態です助けてくださいいいいいい!!??

「拒否の言葉を口にしないという事は了承したという事で良いのですかな。神よ」
「うるさぃ、ちかよるな、て、はなせ。へんたい」

本当に勘弁してください。喋られると全身が粟立つんです中身が思わず出そうになるぐらい気持ち悪いんです黙れ。
眠くもならないし、そもそも寝るところもなかったからと言って深夜まで街中をぶらついていたのが仇になったか。というかそれが原因ですね分かります。でも引っかかったのがなんでこんな変質者なんだもっとマシなのいたでしょ!
これでもヘルサレムズ・ロットの賑やかなところにいたはずなのに。流石にあからさまに危なそうな場所にはいなかった。それでも霧が周囲を覆い、ネオンが輝く治安は悪そうな場所だけど。
目の前には口角を上げる不審者。相対するのは私だけ。ああ、これなら帰った方がいいと言うばかりで煩かったニャルを帰さなきゃよかった。助けてどらえもーんみたいな感じで読んだら来てくれないかな……来てくれないよね。勝手に行動して変態に絡まれてるんだもん。助けてくれるわけないよね……。

「……かみ?」

というか、こいつ私のこと神って言ったよね。え? どゆこと? 知ってるの?
見た目は普通の二十代半ばほどの男性で、どちらかというと整った顔をしている。しかし嫌ににやつき方が様になっていていい印象は抱けない。そして私を路地裏に引っ張ってあの謎の発言だ。不審人物以外の何物でもない。

男はやはりにやつきながら私を見下げる。

「ええ。人間の姿をしていても分かる……ああ、世界を作りし神よ。貴方がどのような気まぐれでこのような場所にいるのかは知りませんが……私は運がいい」

私は運が悪いんですね分かります。いや、分かりたくない。
ほんまなんなんですかこの変態さんは。
何かで気を引いているうちに逃げ出そうかと考えていると、目の前の男は私をつかんでいる手を引く。
ちょ、な、なんなんだ。警察呼びますよ! 本気ですよ!!

「随分と愛らしい姿だが……中身はどうなっているんです?」
「ぅぁ!?」

すり、と首元に手を入れられて、思わず声が出る。
う、うわあああああああああああやばいやばいやばいこれはマジでやばいいろんな意味でやばい。
もうこれは男性向けの薄い本になってしまう感じですよほんとやばいかんじですよあばばばばばばばばば。

「いいえ、無粋な質問でしたね……大丈夫、一口しかいただきませんよ」

いや本当に意味が分からないというかおいてめぇ


「てを、はなせ」

ぱん。と軽い音が響く。
驚きと音源からの風圧に目を反射で目を閉じた。
な、何の音だこれ。え? 発砲音? え、もしかして誰か助けに来てくれた?
おそるおそる目を開けてみると、目の前にはやはりあの男が。
しかしその顔は先ほどまでのにやけ顔ではなく、ひどく歪んでいる。
何故か、その理由はすぐに分かった。
男の腕が、そこにない。まるで何かに抉り取られたようにまるまるなくなってしまっている。
両腕とも、肩口までばっさりと、だ。

な、何が、いったい何が起こったんだこれ。
て、天罰? いやそんなまさか。っていうかグロいなこれ……私が失敗して成る虫もどきほどじゃないけど。
呆然として見つめていれば、男がどうにか、といった風に笑みを作る。いや、その状況で笑うってこの人本当に頭おかしいのかっていうか病院行かなくていいんですかそれ。絶対痛いどころじゃない……って、血が出てない?

「お酷いですね……お気分が悪いようだ。今回は出直します」

そう、少しだけ苦しげな口調で言ったかと思えば――瞬間腕が生えた。
まるで魔法のように肉体再生でもされたように生えた……いや、元に戻ったその腕に口がぽっかりと開いた。
な、なんだそりゃあ! 私も大概だけどヘルサレムズ・ロット本当になんでもありだな!!
しかし、謎の男は異界出身なのだろうか。そうじゃないと地球怖い技術怖いってなるんだけど。
戦々恐々と見ていれば、男はざっと踵を返す。まるで逃げ出すようにその場から恐ろしい速度で走り出す男を眺め――っていうか逃げてるじゃん!! 散々人を脅しておいて、いきなり両腕失って再生して逃げ出すってなんだそれ!!
逃げるなんてまかり通らん! 絶対に捕まえて警察に突き出してやる!!

「ゆるさない」

あまつさえ幼女に手を出そうとしたのだ。タダじゃあすませないぞ!

煮えくり返った腸から、怒りと共に中身が出てくる――それは一直線に逃亡する男めがけて伸びてゆき、そのまま男の体全てを繭のように包み込んだ――ってうわっ!! やばい、中身がッ、スカート下から出てる! 出ちゃった! 回収! 戻れ戻れ! 誰かに目撃されたらやばい!!


数分後。かなり大量に中身が出てしまっていたが、どうにかすべてしまい込むことに成功した。
ううむ。結構すぐ出てきちゃうな。怒ったりすると尚更のようだ。必要に応じて出すだけならいいんだけど、それ以外で出てこられると困る。改善はしたけどそれでもかなり気色悪いことに変わりはないからなぁ、中身。

「……きえた」

そして、中身――触手でとっ捕まえたはずの男なのだが、触手をすべてしまい込んでも姿を現さなかった。
確かに飲み込んだ感覚はしたのに。まさか、身代わりの術!?
まさかとは思うけど、ヘルサレムズ・ロットだ。あり得ないことはないのかもしれない。
まさか外に出て一日目に不審者に襲われるとは。やはり恐ろしい街である。
怖いけれど、でも面白かったり楽しいことの方が山積みだ。それに、まだスカーフェイスに会えてもいない。
怪しすぎる不審者は取り逃してしまったけど、自分は無事なのだしそれでよしとしよう。

でも血がなんやらとか、私が一応神だと知ってるとか、なんだったんだろう。
血……もしかして吸血鬼とか? いや、流石に外出一日目でこの世界の最大の敵である吸血鬼なんて恐ろしいものと接触とか、そんなわけないか! なんか逃げてたし!

さぁ、明日も張り切って、街を楽しみつつスカーフェイス探しだッ!





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「クトゥルフ幼女主が吸血鬼と遭遇したら」
探索者さんへ捧げます!
リクエストありがとうございます!
探索者さん、という事はTRPG経験者でしょうか? いあいあクトゥルフ!
今回は吸血鬼と遭遇の方を書かせていただきました! 暴漢SAN値直葬も楽しそうだったのですが、吸血鬼相手に無意識で無双する幼女が浮かんでしまって……。
幼女が嫌ったものは存在はできない。幼女が否定したものは破壊される。幼女は最強だったのだ……。
因みに吸血鬼さん(モブ)は消えたのではなく幼女の中に――されました。
では、リクエストありがとうございました!

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