小説 リクエスト
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▼ 神は放たれる


――ニャル、ニャル! 何それ、何それ聞いてないよッ!!
何って、あれだよ。人型になってたじゃん。今は人型じゃないけどさ。
え? これぐらい普通にできるって?


ニャルがスカーフェイスとクラウスを人型になって外へ連れて行ったあと。
私は早速ニャルを問い詰めた。何その人型、反則だ! 伸び縮みしかできない私に喧嘩を売ってるのか!
ふんすふんすと鼻息荒く(私の鼻はどれだろう)ニャルに尋ねてみたら、帰ってきた言葉と視線は“なに、こんなこともできないの”みたいな馬鹿にしたものだった。
で、できないよ! 目玉作ろうとしてゲテ物作る人だよ! 人の手をイメージして貝だか虫だかわからない謎のきしょい物体を作り出す私だよ! できるわけないじゃん!


ど、どうやってやるの? コツとかないの?
うん、うん。わかんないからさ。うん。
お願い、コツだけでいいから。


縋り付くように聞くと、必死さが伝わったのか、ニャルは渋々だが教えてくれることになった。
良かった……これで断られたりしたら触手で本格的にニャルのこと追いかけようかと思ってたけど、大丈夫だったね。
これまで私はずっとこの体のままで、この空間に居続けなければならないのかと思ってた。けど、スカーフェイスと出会って、思いがけず寂しさを覚えたし、外へと出たいという欲求も覚えた。なら、これで私も人間になれないなんてなったら嘘だ。

まず、ニャルが教えてくれたのは自分の体積を抑え込むことだった。それから成りたい造形を思い浮かべてそれに沿って形を構成していく――なんだその感覚が物を言う感じは。勘弁してくれ。それやって私ゲテ物作り上げたんだけど。
ニャルはそんなわかりづらいコツを教えてくれたあと、実践してくれた。気味の悪かったニャルの体はぐにゃぐにゃとどんどん形を変えていき、そして最終的には人間と同じぐらいの大きさになり、エジプト人風の人間へと変化を遂げた。
凄いと思った。私にはたやすくできない事柄だ――だが、一つ気に入らないことがあった。
ニャル……どうしてそんな美形に変化するの。
もしかして、自分がきしょい形であるのを気にしていたのか。ごめん、私散々内心できしょいきしょい言ってた。ほんとごめんね。

しかし、僅かながらであるがコツが利けたのだ。
何がなんでも頑張って、私は人間の姿になる。
そうすれば人界にも行けるし、そこでいろんな人と意思疎通が取れる。私は寂しい想いをしないで済むし、相手に見られて発狂されることもない。
それに――会いたい。スカーフェイスに会いたい。
目がどんな感じで治ったかも気になるし、あの後きちんと後遺症がないかも心配だ。
あと……あと、普通に話してみたい。私のこと覚えてる? 人間の形になれたんだよ。元気にしてる? ……スカーフェイスがいなくなって、寂しかった。

人の形になって、声も普通にできれば、スカーフェイスが頭を痛めなくて済む。いっぱいいろんな事が話せる。
考えただけでもウキウキする。コツが曖昧すぎて不安だけど、それでもやってやる。
人間の姿になって――スカーフェイスに、今度は私から会いに行くんだ。
きっと驚くだろうなぁ。うふふ。



それから私はずっと変化をし続けた。大きくなったり小さくなったり。今までここまで努力をしてきたかというレベルで人間になれるよう努力した。元々体の大きさを変える事は出来てはいたので、後は人間と変わりがないぐらいに小さくなれればいいだけだった。
そして、できるだけ小さくなることに成功した私は、早速人間の姿になろうとして――貝のような、その貝に虫の足を何十本も付け足したような、なんか見た瞬間に発狂しそうな凄まじい何かと成った。

ってどういうことだあああああ! きもい!! ってかこれ手を作ろうとしたときにできたやつじゃねぇか! なにこれ私これ好きなの!? なんなの!?

一人憤っていると、小さく縮めた体積を抑え込めなくなり、その虫は爆発し、いつもの大きさよりも何千倍も大きくなってしまった。
小さくなることには成功しているのだが、油断すると体が爆発したように大きさが巨大になってしまうのだ。
この、感情が高ぶったり気が抜けたりすると抑え込んでいた分の体積が爆発してしまうのも、なんとかしなくては。


それからさらに努力を続け、私はようやく――そう、ようやく人の姿となることに成功した……!!!
と言っても、コツを教えてもらったお陰か物凄く早く習得することができたのだが。あと、一か月間共にいたスカーフェイスを元をしたお陰でもあるかもしれない。そのせいかこの姿はハネがある長い黒髪に灰色に少し赤を足したような瞳の色になっていた。
しかし、その姿が実はちょっと問題がある。
そんな足が十本あるとか、体が煮えたぎってるとかそういうわけではないのだが……縮こまりすぎて成人ではなく、小さな子供サイズになってしまったのだ。
そして女性なので、まさに幼女……しかしここから大きくしようとすると加減が利かなくて爆発してしまうし、ようやく人の姿に成れたのだ。ここでまた一からというのも辛い。

……まぁ、幼女がいいかなぁ。
喋りの方には力を入れていなかったので、喋り方は人間になっても舌足らずなままだ。
しかし、意思疎通はできる。それだけで十分ではないか。
声を聞かれても拒否反応を示されず、姿を見せることもできる。なんて素晴らしいんだ人間の体!!

しかしまぁ、背中から中身が飛び出すのが中々抑えられないが……ある意味もしもの時の自衛手段になるので、丁度いいかとも思う。あの街はなんだかんだと危険が一杯だろうし、私みたいな神モドキが無防備に訪れたら危ない目にあうかもしれない。
なら、ちょっと見た目はグロデスクだが私の手足のように動いてくれる触手がすぐに使えるのはいいことだろう。一応触手の見た目もできるだけ綺麗にしたし。


ニャル、ニャル!
人間の姿に成れたから私を人界に連れてって!
え? ……なんで嫌なの? ……ほしいものがあったら持ってくるって、私は人界に行きたいんだってば。
だから行きたいの。行きたいんだってば。
……じゃあいいよ自分で行くから。


ニャルがなんでか外に出したがらなかったので(そういえば私閉じ込められてたんだ)自力で行くと駄々をこねたら、ニャルはあっさりと折れた。
なんでも私に暴れられたら全てが無くなる、だそうで。
なんだよそれ。私は爆弾か! 人間の体になって、力の加減も覚えることができたのだ、きちんと程度を守って暴れて外へ出るわ!
ぶつくさ言いながら、私はニャル(美形)に案内され、ヘルサレムズ・ロットへと赴くことになった。

あ。そういえば、私、名前なんなんだろう。
人として過ごすんだから名前ぐらいなくちゃだよね。
記憶はある時期から薄れてないから名前は覚えているけど、もしかしてこの体の名前とかあるのだろうか。こんなのに名をつける人なんていなさそうだけど。一応聞いておこうか。


ねーねーニャル。私の名前って何か知ってる?
え? あざ……あざとーい? 
……よく分かんないし、昔の名前のままでいいや。


ニャルに教えてもらった名前がよくわからない英語名だったので、とりあえず却下させていただいた。というか人間の名前っぽくない。
なのでこれより私は、前世の“生江”と名乗ることにする。
楽しみ。すっごい楽しみだ。退屈で仕方がなかった日々が、こんなにも色鮮やかになるなんて、考えてもこなかった。
ニャルにもちょっとだけ感謝をしよう。ニャルのおかげで、私は彼と出会えたんだから。


よし、待ってろ人類、待ってろスカーフェイス! 私はこれから、生を謳歌するぞーーー!!!


……え? なにニャル。……あ、ほんとだ。服忘れてた。
な、なんだよ。ん? この服着ろって? おお! ありがとう!
さて、どれどれ……ってゴスロリかよ!! 



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「血界クトゥルフ嬢が幼女になるまでの過程の話」
優奈さんへ捧げます!
リクエストありがとうございます!
今回はニャル様たくさん登場となりました。でもやっぱりしゃべらない。
memoの返信でも言っていたのですが、リクエストを募集してからの初めてのリクエストだったので、とても印象に残っております。
これからもクトゥルフを親しんでいただければと思いますw
では、優奈さんリクエストありがとうございました!!

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