小説 リクエスト
- ナノ -


▼ 「帰りもお気を付けください」

*リクエスト品すべてを読み終わった後のほうが辻褄が合うかと思います。



「レオナルド様。お怪我はありませんか?」
「は、はい」

ライブラの執事として雇われてからの私の業務はライブラの情報を一括するギルベルトさんの手伝いやゴミ処理。それから、現在進行形で腕の中で縮こまっているレオナルドという少年の警護などである。
その時々に必要とされる業務を行うのは必須ではあるものの、こうした緊急の時は早急に現場に急行する。

「っていうか、あの、なんで俺の居場所わかったんですか?」

現状はといえば、神々の義眼とは関係なく、人身売買の業者に運悪くレオナルド様が連行されかけたところである。
そのため場所は裏路地であるし、レオナルド様からのSOSなどは入っていない。

「ふふ、なぜでしょう」
「え、ええー」

といっても手品を教えるわけにはいかない。
しかし、簡単なことで鋼線をつけているだけなのだが、ある意味で護衛対象のプライバシーを阻害するものであるので教えはしない。私も業務を遂行するのに必死ですので、そこらへんは大目に見てくださいね。
しかし、その頬は赤く染まっている。どうやらこの顔は女性どころが男性にも効き目があるらしく、レオナルド様は業務上お助けすることなども多いのでよく顔を赤らめている。指摘するほど野暮ではないので、いつもスルーではあるのですが。

「さて、ではさっさと退散いたしますか。行き先はどこでしょう。お送りいたしますよ」
「えっ。でも、悪いですよ」
「いいえ。これぐらいはさせて下さい」

笑みを浮かべれば、この顔に弱いのか反論の言葉を失うレオナルド様から行先を聞き出す。
素直に地面を駆ける気はない。堕落王のゲームに巻き込まれている身なので、あまり大衆の前には出たくはない。
と言ってもライブラの一員としてゴミ処理を行う場合は大々的に表に出てはいるのだが。それはスティーブン様の「派手に動いていれば捕まえようとする輩もやる気が失せる」という話に乗って振る舞っている節もある。私としては邪魔な輩も一緒に細切れに、とも思ってはいるのだが。
しかしこうした日常で姿を現すのはあまりよろしくはない。

「では」
「うわぁ!」

鋼線を利用し、宙を駆ける。ビルからビルへ、時には屋根を伝う。
行先にまではあっという間にたどり着ける。場所はアルバイト先のピザ屋だったのでその屋根へ着地した。
早いが一緒に動く方にはGが強いのか、レオナルド様は疲れ切った顔をしていた。

「う、ウォルターさんって、いっつもこんな移動の仕方してるんですか?」
「いえ。変装をしている場合は一般道を使ってますよ」
「変装?」

そう。一般道を使う場合は必ず変装をして言っている。
パッと見て私だとわからないように。

「襲われたりしないようにですか?」
「ええ、それもありますが。サインなどを求められないように、ですねぇ」
「サイン?」

そう。サインである。
この世界の住人にとって、私は漫画のキャラクターだ。いかに中身が異なるとしても、私の外見はHELLSINGのウォルター・C・ドルネーズであり、傍から見れば違いも何も分からないであろう。
HELLSING自体は昔の漫画ではあるものの、人気が高く、知っている者は多い。そして、どうしたことか堕落王のゲームの一件があってからヘルサレムズ・ロットでHELLSINGはブームになっているようで。

「私を見かけると、女性男性、人や異界生物問わずサインや握手を求められまして」
「わ、わー」
「“HELLSING”が人気になるのは嬉しいのですが……」

私にサインを求められても困ります。
そうため息をもらせば、レオナルド様は苦笑いを浮かべた。

「まぁ、ウォルターさんカッコいいですから。俺もサイン貰いましたし」
「そうですね。私のファン一号はレオナルド様でしたねぇ」
「あはは」

私が中身が日本人女性だということが判明した後、レオナルド様はおずおずとした様子でサインを求めてきたのだ。
本人でないということを承知ではあったものの、それでも欲しいとの事で書いてレオナルド様に渡したのだ。
あの時の喜びようは見ていて微笑ましくなった。思い出して恥ずかしがっているのか、頭を掻いているレオナルド様を横目に、ライブラでの業務兼ギルベルトさんとの語らいをしに行こうと鋼線を漂わせる。

「では、私はこれでお暇させていただきます。お気をつけてくださいませ。レオナルド様」
「あっ、あの!」
「はい。なんでしょう」

飛び出そうと屋根の縁にかけていた足を止める。
レオナルド様を見れば、少し困っているように眉を八の字にした後に叫ぶように言った。

「俺のこと、様とかじゃなくて、ふ、普通に読んでください!」
「……しかし、私は執事として雇われている身ですから」
「で、でも、同じライブラの仲間ですし……えーっと」
「ふふ。K・K様などは寧ろ良い、と言ってくださるのですが」

どうやらK・K様は何かツボに嵌るようでとても楽しそうにしている。
チェイン様も同じようで、見ていてとても面白い。
そういえば、レオナルド様が困ったようにするので、大丈夫ですと微笑んだ。

「では、レオナルドさん。と」
「は、はい! ありがとうございます!」
「帰りもお気を付けください」

屋根から飛び降り、鋼線を使い一気に飛び出す。
これからギルベルトさんと買い出しですか。楽しみですね。
しかし、お気を付けくださいとは言いましたが、何があっても私がお助けいたしますので、ご安心ください。



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「ウォルター短編続き」
緑メッシュさん・犬派さん・聖yesさんに捧げます!
レオナルドとのほのぼのとなりました。
随分と殺伐としたものを書いてたので、癒されながら書かせていただきました。
リクエストに沿っているか少々不安なのですが、楽しんでいただければと思います。
では、リクエストありがとうございました!

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