小説 リクエスト
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▼ 「――ミンチにしてやろう」

*「……F○ck」と続いております



つまり、これは一体どういう事だ。
私は日本在住の日本人女性だったはずだ。こんなイギリス人男性、しかも知っている漫画に出ている人類最強の全盛期の姿などしていなかったはずだが。
頭の鈍痛と胃が逆流するかのような気持ち悪さに辟易として、とりあえず煙草を吸おうとズボンのポケットに手を這わせる。しかしそこには丁重なことにからの煙草箱が入っており、怒りに任せて手の内で潰した。
なんだというのだ。あの阿保臭い男は何処かへ消え去り、どうして自分がここにいるのかさえも分からない。
いや、違う。分かっているのだ。なぜなら私はこの世界が乗っている本を見たことがある。寧ろよく覚えてる程だ。その中で私がこうなる原因はただ一つ。

「堕落王……!」

あの戯者め。今度会う時は容赦せん。ぶち殺してやる。
漂う鋼線を回収し、感触の悪いクッションを蹴り、地面へと着地する。野次馬のように集まっていた人間や異界生物共を一瞥し、その場から立ち去ろうと一歩を踏み出す――と店のウィンドウの向こう側にあったテレビがあの忌々しい顔を映し出した。

『あーあー、聞こえてるかいウォルター・C(クム)・ドルネーズ君! やっぱり一筋縄ではいかないねぇ、いいよいいよすっごくいいよォ! そんな所もとてもいい! 僕のペットは負けてしまっただろうからね。ここは一つ勝負と行こう!』

すぐに出てこいその首を刎ねてやる。
頭の鈍痛が怒りに返還されていく中、液晶に映る間抜け顔はどこまでも愉快そうに笑いながら、大袈裟な身振り手振りでゲームの内容を得意げに語る。

『この街にいる誰か。そう、誰でもいい。彼を、ウォルター・C(クム)・ドルネーズを捕まえられた者にはッ、僕がなんでも作ってあげよう! 大盤振る舞いだ! 世界を支配する魔導具も、特定の誰かの心臓を止める魔術も、とっておきのかっわいい美女も、なんでも作ってあげるよ!』

周囲が一気にざわつく。愚人は丁重に私の写真まで取り出して叫んでいる。
私を捕まえたものに、自分の技術を結集させたモノを作ってやると。

『さぁ、ゲームの始まりだ。相手はこの街全員、逃亡者は君一人。アッ、捕まえた人はここに連絡ちょーだいねッ! じゃあ、皆の奮闘を待ってるよォ、因みに期限はナシだから!』

テレビに映し出された電話番号と、言うだけ言って画面から姿を消した戯けに煮えたぎるような殺意が湧き上がる。
頭の痛みからは怒りが、胃が逆さになったような気持ち悪さからは殺意が生み出される。ああ、制御はできる。できる範囲ではある。こんな怒り、日本女性が平穏に過ごしてきた中では感じたこともなかったような強烈なものなのに、まるで感情を手で操っているように制御できる。それは可能だ、だが。

「自殺希望者は前に出ろ」

空気の読めない愚かな生物に対し、この感情を制御する必要性は感じられない。
口に出しながら周囲を見渡せば、群がっていた蟻が一斉に散らばるように近場から逃げてゆく。ああ、それでいい。特に、異界生物のように意味の分からないものは目にも入れたくない。
ここで、見つからぬように逃げる意味さえ分からない。どうして私がそんなことをせねばならないのか。だが、このまま表に姿を現していれば面倒なことになることは確実だ。
それは望まない。その面倒が降りかかれば、適当に鋼線で火の粉を振り払えばいいだけのことだとしても、だ。
そう、思っていたのだが。

「やっぱりここか」
「堕落王からのご褒美付きだ。絶対に捕えろよ」
「生きてなくてもいいのか?」
「いいんじゃないか、別に」

そこにいたのは異形の生物たちであり、しかし人語を操っている。
鈍痛と気持ち悪さがどっと身体を襲う。ああ、気味が悪い。
異形が群れ、人語を操り、果ては私を捕まえようとなどしている。不愉快だ。不愉快にもほどがある。
ああ、肉の一片さえも。

「――ミンチにしてやろう」

粗挽き、中挽き、細挽き、どれがいい。



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「shortでBBBのウォルターさん主人公のお話の続き」
犬派さんへ捧げます!
続きというか、前のお話です! すいません!
なので「帰りもお気を付けください」をプラスで書かせていただきました。
正直書き直そうかとも思ったのですが、力の入れ具合が半端なかったのでそのままリクエスト品として贈呈となりました(;'∀')
リクエストをしていただいた方は別々なのですが、続き物となっておりますので、楽しんでいただければと思います。
では、犬派さんリクエストありがとうございました!!
因みに私は猫派です! でも犬も好きです!

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