小説 リクエスト
- ナノ -


▼ 噛み千切る

(結構BL風? 苦手な方はご注意)


思考が本能に乗り移られた瞬間、頭の中で何かが切り替わるのだ。
眼前が鮮明になり、色鮮やかに彩られ、そうして楽しくて仕方がなくなる。
全てが腹を抱えてしまうほどに可笑しくて、不可思議で、そうして甘美だ。
甘く刺激的で芳醇で、熟れすぎているほどに熟れている。

吸血鬼はどうにもこうにも愉快で仕方がなかった。
唯一冷静な理性がそれは本能によるまやかしだと訴えるが、その理性でさえも愉快さに酔わされて笑みを止めることが出来ない。
目の前にいる得物が欲しい。こんなにも旨そうなのに、どうして我慢しなくてはならないなどと思っていたのだろう。
真っ赤な舌を出し、その首元に滑らせる。びくりと動いた身体が面白くてそのまま吸い付いた。
小さく声を上げた執事ににやりと笑う。まるで愛らしい小動物を苛めているような感覚だ。正常で平凡な部分が罪悪感を募らせるが、それ以上に異常な欲がそれを愉快だと言う。あの笑みで何にも対応しつくす執事が、舌一つで常にない反応を返すのだから。愛らしいものは何をしていても、何をされていても愛らしい。それが悪戯だろうが、痛めつけられていようが。
だからこそ、何もかも欲しいと本能で想ってしまっても仕様がない。

「っ、アーカード」
「お前は私のものにならないと言ったが、私はお前が欲しいぞウォルター」

決して張りがあるとは言えない肌に赤い跡を付けていく。
それで執事が吸血鬼のものになるわけでもなく、証というわけでもない。
だが、それでもただ微笑みを浮かべているだけの執事の胸中には刻まれただろう。
その内側が、怒りに狂っているのか羞恥に染まっているのかは分からないが、そのどちらもで良かった。

「ウォルター、お前の可能性を見せてみろ」

牙を向く。それは執事の首元へ突き刺さり、そうして血を吸うだろう。
待っているのはグール化一つだ。たが、眼前の執事はそうはならないと断じた。
ならば、その言葉を真実にして見せろ。避けるほどに吸血鬼の口元が笑みに彩られる。
理性は、もうどうにでもなれと耳を塞いだ。

「あぁ、しかと見ていろよアーカード」

まるで、どろりと溶けた鉄が脊髄に流れていくようだった。
常の彼とは全く違う、まるで恋人に囁くような掠れた声。
それに加えて、彼が昔と変わらぬ獰猛な顔で笑うから、昔とまるで違う狂喜に溢れた顔で笑うから。
耳を塞いでいた理性までも彼を求めてしまうんじゃないか。

「(ああ、もう本当に、)」

「愛してるよウォルター」

力づくにでも、手に入れたくなった。






――――

ななこさん、豹柄さんリクエストありがとうございました!
だから桶専とか言われてるんだよ吸血鬼ェ……。
吸血シーンまで書こうかと思いましたが撃沈しました。Rの香りしかしない(^ω^)
ウォルターの色気にデッロデロのクッラクラ。みたいな感じなのですが、リクエストに合っているか全くわかりません。合っていなかったらすいません!!
ななこさんと豹柄さんへ捧げます! ありがとうございました!

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