小説 リクエスト
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▼ 周りが怖い

とりあえず、痩せよう。
思ったことはそれだった。突然異世界――というか無双世界に飛ばされて、しかも董卓の身体なんて言う嫌すぎる状況になったわけだが、最初に思ったのはそれだった。
呂布と貂蝉との対面をどうにか切り抜けて(っていうかそもそも董卓はどうして二人を呼んだんだ)本当にこれが夢じゃないのだと現実を受け入れた。五感は確かにあるし、ぶくぶくと肉団子のように太った身体は動かしにくいし、味覚もきちんとしていて、痛覚もあり、意識もしっかりしている。
夢であっても、夢と考えて行動するのを躊躇うほどのリアル感――いや、もう受け入れるしかなかった。

だが、受け入れた後が問題だ。
これからどうするか――それしかない。
現状は手元に呂布と貂蝉が居り、幼い皇帝を囲っている状態――詰んでる!! もう殺される未来しか描けない!!
絶望を存分に味わった。だが、いつまでもそうしてなどいれなかった。
何故なら、私は死ねないからだ。どうにかこうにかして、現実世界へ戻らなければならない。
死ねば戻れるだろうかとかいう考えもあるが、そんな想像に縋りつけるほど楽天家ではなかった。

ならば、どうするかといえば――痩せるぐらいしか思い浮かばなかった。
学ばなければならないことはごまんとある。私の知識はただの一般知識程度で、この群雄割拠の時代を生き抜いていくことは出来ない。けれど、それでも生き抜かなければならないのだ。
ならば、どうするか――とりあえずこの生きてるだけでも辛い身体をどうにかするのが先決だった。
息はし辛いし、動きにくいし、転びそうになるし……よくゲームの董卓はこれで戦っていたものだ。私には無理だった。慣れない体だからということもあるだろうが、それでもあり得ないほどに生き辛い身体だった。

「ふぅ、ふぅ、はふぅ」

とりあえず、周囲の物事は董卓っぽい物言いで命令したりすれば大方どうにかなった。
それから、僥倖なことに董卓は私腹を肥やすばかりで仕事という仕事はやってこなかったようで。
ただ適当に命じていれば大体の物事は進んでいた。なんという優秀な……いや、寧ろ逆か? でも部下に賈クがいるので、やっぱり優秀なのかもしれない。

私がこの身体に入ってからは、ひたすらにダイエットである。
食べる物も半分以下に減らし(周囲からは頭が狂ったと囁かれた)今まで使ってこなかった爆弾以外の武器を片手に鍛錬をし(ついに董卓様自ら屋敷の気に入らぬ者を殺しに……!と囁かれた)女性を侍らすこともやめ、情報収集の為に出来るだけ周囲の人間の言葉に聞き耳を立てるようになった(何を企んでいるのかと囁かれていた)。
っていうかもうなんというか信頼度ゼロだな董卓。当たり前だけど。
そんなわけで今日も今日とて鍛錬場で武器を振り回していたわけだが――

「董卓様」
「貂蝉ではないか」

貂蝉は輝かしい笑顔でこちらに近寄ってくる。しかし知っているぞ、その目的が董卓を殺すことであることぐらい――といってもそれを看破しているとばれたらそれはそれで怖いので、何もいいません。

「これをどうぞ」
「果物か……」

貂蝉が持っている籠には果物が沢山入っている。
丁度鍛錬をしていて、汗が大量に出ていたから(この身体は発汗が凄すぎる)喉も乾いたしとても気が利くのだが――前に同じ感じで貰ったら、腹を壊したんだけど、なんでだろうね……。
とりあえず、前の事もあるので遠慮させていただこう。
だがしかし、董卓からすれば愛しの貂蝉からのプレゼントである。ここですげなく断ってしまえば疑われること請け合いだ。ならば――

「その果実、色が良くないではないか! 貂蝉にそんなものを渡すとは……許せんぞぉ!」
「そんなことありませんわ。董卓様、態々摘みたてを持ってきていただきましたわ」
「おおー貂蝉よ。健気なことよ。しかしわしには分かるんじゃ。雑な仕事をしおって、許さん!」

はい。こういう時は実力行使です。
わざわざ死ぬかもしれないものを流石に食べられません。
貂蝉が、そうなのですか。と純粋に残念そうな顔をするが、それが仮面であることを私は知っている。
正直恐ろしくて仕方がない。呂布も私と貂蝉が喋ってるところを目撃すると鬼の形相になるし、本当に勘弁してほしい――って。

「董卓、そんなに鍛錬がしたいのならば、俺が相手をしてやろう」
「は? いやそれは――」
「それがいいですわ! 一人でやるよりも二人の方がいいですもの」

丁度呂布が目撃してるとかなんなの!? しかも貂蝉がノリノリだし!
間違って殺されないかという魂胆が透けて見える……そして呂布は殺意を隠さないし、一応私上司だからね? 分かってる? ……分かってないか。

「て、手加減を忘れるのではないぞ!!」

完全なる戦闘態勢に入っている呂布を前に、私が言えるのはそれだけだった。
くそっ、周りが敵だらけで泣きそうなんですけど!!




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ほのかさんリクエスト、ネタの董卓成り代わりの続きとなります!
リクエストありがとうございました。更に遅くなって申し訳ありませんでしたあああああ!!
書かなければと思いつつ、どうにも筆が乗らず、こんな後になってしまいました……。
難産でしたが、見てくださっていれば嬉しいです!

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