- ナノ -

20


ライブラメンバー、詳しく言えばレオにザップ、チェインとK.K。そして車を運転していたギルベルトが恐る恐ると言った風にライブラの部屋のドアノブを回し、そろぉっと部屋に入る。
五人の顔はそれぞれで、緊張により強張っている者。訝しげに眉間にしわを寄せている者。祈るように手を組んでいる者。何事も無いように佇んでいる者などそれぞれだった。

五人が室内をみた時、そこには事務机に座るライブラのリーダー、クラウスがいた。
そして、もう一人。コーヒーカップを片手に持ちながら佇み窓の外を見ている黒髪スーツの、頬に古傷のある男。

「す、スティーブン、さん?」

レオが恐々と声を上げた。
目に映るのは、確かに見慣れたライブラの副官、スティーブン・A・スターフェイズだ。
だが、ついさっきまで日本人女性の姿をしていて、見ている方が胸が痛むほどに取り乱し、そうして生気を失くしていた。
それは、スティーブンその人の“本当の自分の姿”になった結果であり、その女性がスティーブンであるというのは、ほぼほぼ皆の共通意見だった。

名を呼ばれ、コーヒーカップから一口液体を呑み込んだ男が、扉の方へ身体を動かす。
その顔は、いつも通りの年相応の落ち着いた面持ちで、任務から帰還したメンバーを確かめていた。

「ああ。おかえり、大変だったろう。お疲れ」
「「「へ?」」」

何事もなかったかのように、コーヒーを持つ方の手を持ち上げるスティーブンにレオとザップ、チェインは呆けた顔と声を出した。
それを見て、思わずと言った風に吹きだしたスティーブンが、続けて労りの言葉を投げかけた。

「今回は迷惑をかけたね。まぁ、ゆっくり休んでくれ」

ソファに座って資料まで読み始めたスティーブンにザップが恐々と話しかける。

「……調子どうっすか」
「ん? 快調だよ。いつも通りにね」

資料を読みながらザップ達の方には目もくれずに告げたスティーブンだった。
やはりそれはいつも通りで、各々に朗らかに笑っていた生江の姿を脳裏に浮かべていた。

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