- ナノ -







中二病というものを知っているだろうか。
まぁ、かっこよさを求めて彷徨ってしまい、その方向性を間違えて墓穴を掘る黒歴史製造病なわけだが。
俺はそれが大嫌いだ。
なぜなら、それが俺の黒歴史を刺激するから。
軽くトラウマ扱いである。

俺の黒歴史は前世全てだ。
生きる意味とかのたまっていて、ああもう見てらんねぇ。
その場にいたら殴り飛ばしたくなるほど、鬱々としていて悲劇の主人公気取りだ。

他人がそういう体験してそんな精神状態ならば別にここまで引かなかった。
ただ、己のことだと思うと、どうにも拒否反応がでる。

だから、俺は今は中二病などと痛い病気は抱えていない。
過去の自分をこう回想できるのだから、絶対そうだ。


――現実逃避はここまでにして。


暗闇の中に炎が舞い踊る。
あれほど気をつけていたというのに、畑が火にあぶられていた。
あーあ。と思いながらそれを眺める。

他の兵士は村人を囲い込んで殺すことに一生懸命だ。
俺はといえば、アラムの後ろに控えて虐殺具合を見守るだけだ。
アラムも村長を殺していたが、俺は何もしない。

基本的に、俺は武器を持って殺される覚悟を携えている敵以外を殺したりしない。
俺の矜持だ。いつまでも守れるものだとは思っていないが、今までの戦場はこちらを本気で殺しに掛かってくるものが多かったので、7年間はどうにか守り続けてきている。

しかし、今回はどうなんだろうな。
家族を友人を子供を、村の仲間を殺されたエルフたちの悲痛な叫びと、畑が燃えている事実に対する兵士たちの焦りの声が響く。
さすがのアラムも焦っているようで、兵士たちを叱り付けている。気をつけろといったのに。と。

しかし不自然だ。
エルフたちの麦畑はここから若干遠い。
そこへ火を持っていくのは、風向きやこちらの持っている火の大きさから見ても無理だ。
ならば、ここには第三者が絡んでいると考えるのが定石だ。

漂流者。その言葉が頭を掠める。
そもそもここへ来た元凶はなんだ。
漂流者ではなかったか。エルフの子供が漂流者を助けたために俺たちが罪を罰しにきた。
だが、それ以前に漂流者は助かっているのではないのか?
助けた、そうして助かった。そして、その助けたエルフの民が今、こうして窮地に陥っている。

漂流者が奇想天外な人物たちということは知っている。もちろん恩を恩で返さないものたちも大勢いる。
だが、酔狂なやつかもしれない。
そういうやつもいた。だからこそ前世では私たちの組織は広まった。

漂流者。彼らは方向性は違えども特出した武器を持つ。
それはそのまま扱う武器だったり、頭だったり、策略だったり、腕前だったり。
この世界の住人が持っていないものを、持っている。
偉人たちがやってくるということなのだから当たり前といったらそうかもしれないが。


「あ」

来た。
燃え盛る麦畑の煙の中から、隠れもせずに一直線に。
赤い何かがやってきた。

それは長い距離を一気に詰めて、兵士たちの首と胴を分かれさせる。
長い刀を振りかざし、人とも思えぬ動きでばさりばさりと、いや、ぐちゃぐちゃと砕き落とすようにすべやかに殺していく。

ああ、うわぁ。こりゃ、駄目だろ。

士気がどん下がりどころではない。化け物と対面したようなものだ。
服装も顔も姿かたちが全てオルテの人間と合致しない。
そうしてわけも分からぬ武器で仲間を殺しまくっている。
こちらの部隊は一瞬で混乱と恐怖で彩られ、兵士たちが四分五裂だ。

アラムも驚愕したようだが、直ぐに落ち着き払い、寧ろ兵士たちに脅しをかけている始末だ。

「逃げるな! 殺すぞ!」
「(そりゃないんじゃないか)」

この状態で逃げるな。と。
やってきた漂流者(化け物)は、化け物らしかった。
大きな声でオルテの言葉ではない言語を吐き散らす。


『首置いてけ! なぁ!』