- ナノ -






エルフの森に漂流者がやってきたようだ。
まぁそれ自体は珍しいことではない。世界各地に漂流者たちがいるわけなので、そういうこともあるだろう。
しかし、問題なのはその漂流者がエルフに助けられた。という点だ。
正確にはエルフの子供にらしいが――人間には関係がない、ということだ。

いい機会なのだそうだ。
近頃オルテの戦況は悪化の一途を辿っている。
そんな中で占領化された亜人たちの鬱憤も最高潮にまで達していることだろう。

だからいい機会なわけだ。
エルフを殺すいい常套句が得られた。
罪、大罪。エルフが、亜人が漂流者に関わることは罪だ。

「糞ったれな世界だなぁ」

一人呟く。別に自分に関係がないならよかったのだ。
だが、今回はすこぶる関係がある。

「何か言ったか。ディーバ」
「いいえ。なんでもありませんよアラムさん」
「ふ、代官にしてやったのだから、それ相応の働きはしてもらうぞ」

してやったとか、なんという上から目線。
アラムと呼んだその人物は、この城館でかなり上のヒエラルキーにいる人物だ。
騎士武官と呼ばれ、兵士を束ねる存在だ。
剣の腕も一流。まさにエリートだ。

俺がこんな糞ったれな場所に来る原因にもなった人物なのだが。

「にしても、俺なんかを代官に任命してしまってよかったんですか?」
「何を言っている。お前の腕は確かだ。それにまだまだ伸びしろもある」

この人物が一般兵だった俺を気に入り、ここへ引き入れた人物なのだ。
ちなみに代官というのは武官のお付の人のような感じで、まぁ戦場では彼の援護をしていればいい。
ぶっちゃけマジで優秀なやつがやんないと普通に死ぬ。
俺を殺す気か、という話だが、彼にそんなことはいえない。

アラムはどうやら自信に溢れたリーダータイプ。簡潔にいえば、自己中心的で自分以上の人間はいないと思っている人種だ。
もちろん知識上では分かっているのだろうが、それでも自分が一番だと思い込んでいて、自分の命令は絶対だ。
その分論理的で計算高く、実力もあるということで騎士武官としては優秀なのだろうが。

「さて、行くぞ。収穫が終わっているといいがな」
「(たぶんまだまだだろうけど)はい」

従順に返事をして侵攻を始める。
頑丈な鎧を着て、剣を携え、数十人がかりだ。
目的地は漂流者を助けたエルフの子供が住んでいる村。
命令はエルフの虐殺。見せしめ。半分は殺していいらしい。

ああ、くそったれ。
でも、此処で逃げたら俺の命が危ないので、付き従う。
下にいるものって辛いね。