- ナノ -






そんなわけで今、俺の年齢は25歳。
いつの間にか7年の歳月が過ぎていたわけだ。
そんなに歳が重なったら、偉くでも成っているのかと期待してみれば、もちろんそんなことはない。
俺はまだまだ平兵で、ようやく周囲に認められてきたぐらいだ。
だって、戦のたびに毎回泣いたり吐いたりする奴、普通頼りないって思うだろ。そんな奴に背中を、引いては命を預けるわけにはいなかい。
まぁ泣いたり吐いたりを人前でしたのは数年だけでそれ以降はしなかったわけだが。
毎回そうしてれば噂も広がるわな。

今では戦友として扱われるが、昔はただのガキ扱いだったなぁ。いい思い出だ。

そんで、俺も7年もやってると、ほどほどの中堅だ。
都合のいい駒として――死なない程度に使える兵として――各地に派遣されるわけだが、めでたく25になる今年、俺はエルフたちが集落を作る土地へ派遣された。
といっても、その地域自体は既に植民地化されており、エルフたちは農奴に落とされている。
そこの占領土政庁の執政代官城館の“下見の塔館”というところに配属された。
俺は学がないので難しいことは分からないが、簡単にいうと植民地の民の変わりに政治などを行う場所だろう。

そこには暴動などを圧制するための軍なども揃えてある。その中に加わったというわけだった。
どうやらここの騎士武官というエリート殿に気に入られたらしく、そのために引き抜かれた、という話だが。

うん、どうでもいい。それよりも俺はここで気の合う友人を見つけたということの方が重要だ。

「ミルズ、寝癖ついてるぜ」
「えっ、本当ですか? どこですか?」
「頭のてっぺんそうそう、そこそこ」
「そこそこ、って……何もなってないじゃないですか! また嘘ついたでしょうディーバ君!」
「あっはっは」

ミルズはここに税務計算官として配属されたわけなのだが、そんな職業をしているからには頭がいい。
所謂ちゃんとした教育を受けた誠実な奴なわけだ。
だが、時代とか場所とかが悪かったらしい。
こんな時代じゃなかったらもっと身に合った給料をもらえていただろうし、こんな国じゃなかったら占領地になんて送られることもなかったろう。

実際、ここはミルズには合わない。
俺より身長の低いソイツは、黒髪短髪眼鏡童貞。そんな言葉がぴったりなミルズは可哀想なぐらいに此処じゃ浮いてしまっている。
留守居のこんな場所じゃ、兵士の質もやる気も落ちる。
やることと言ったら訓練と飲み食い博打、時折見せしめとしてエルフを殺してまわったり、かどわしてきたエルフの女性を慰め物とするぐらいだ。

もちろん、俺だって嫌だ。
なんだかんだ言ってこの7年間兵士をして過ごしてきたわけだが。
色々嫌な面を見すぎて飽き飽きした。
25年間も過ごしていると、この国がそろそろ限界なのもつかめてきた。
周りが全部戦場なのだから消耗するのは仕方がないだろうが、上部が無能すぎて駄目駄目らしい。
ここの任期が終わったり、なんかイベントでも起きたら兵士やめよう。やめて家に帰って周囲の手伝いをしてのんびり過ごそう。

そう考えるぐらいには血とか戦場とかそういうのには嫌悪感を持っていた。
やっぱり、俺にはこういうのは似合わない。
きっと、前世の俺だったら何も考えずに出来たのだろうけど、違うので出来ない。なのでそろそろ潮時だ。

出来るだけ男だけ殺してきた。
女子供は逃がして、死ぬ覚悟のあるやつの心臓だけを貫いてきた。
きっと、たくさん恨みを買っていると思う。あーぁ、地獄行きだろうか。

「ミルズ。ここさ、最低だと思わないか?」
「……仮にも武官に代官として任命されるぐらいでしょうが……」
「じゃあアンタはここが最高の職場だと思うか?」
「そりゃあ……思いませんけど」

だろ。と言って笑えば複雑そうな顔をされる。
そうだ。といい案が浮かべば、俺の表情を見て次は不安そうな顔をする始末だ。
アンタ、俺をなんだと思ってんだよ。

「俺、家に戻ったら商売やるわ。きっと繁盛するぜ。そしたら店員としてアンタを雇ってやるよ。そうしたら、きっと大繁盛だ」
「……あのですね。そんなことの為に僕は勉学に勤しんできたわけじゃないんですよ」
「いいじゃねぇか。お前もこんな名誉的な職場に就職するために学んできたわけじゃないだろうに」

もちろん皮肉だ。
こんな糞な職場なんて、糞食らえだ。
だったらまだ正常な友人を連れてのんびり平和に人生を過ごしたいと思うのは普通だろうに。
俺が何度も誘うと、しぶしぶ、というようにミルズが口を開いた。

「まぁ……ディーバ君と一緒にいると退屈はしなさそうですよね」
「だろ。まぁ、最低なとこではないから、安心しろよ」

嬉しくて笑えば、照れたのか目線を逸らす。
それにニヤニヤとして、楽しいと実感する。
ミルズ弄りが楽しいということもあるが、こうして未来に希望を持っていられることが楽しい。

あ。ちなみにミルズは27歳。俺より年上である。そしてそんなミルズを同年齢扱いする俺。2歳とかあんまり変わらないと思うんだ。

ついでとして俺が25歳だと口に出すと普通に驚かれる。もっと年上かと。というのが多数意見だ。
身長は180ほど、髪色は黒で眼の色は青い、中肉で西洋人と東洋人が混じったハーフっぽい顔をしている。
顔は東洋人の童顔さがあるのだが、どうやら言動が落ち着いているらしい。
前世と前々世のお陰だろうか。嬉しくない。

「きっと俺たち嫁もらえねぇぜ。人生の相棒はさえないミルズかぁ」
「なッ、なにか問題でもあるんですか。それにディーバ君が嫁をもらえないのはあり得ないとして、どうして僕も結婚できないことになってるんですか!」
「だって童貞だぜ? ま、いいじゃねぇか。楽しそうな半生になりそうだ」

こんな売れ残りみたいなのが売れるとか、セールしなくちゃ買ってくれなさそうだ。
ミルズはどっちも売れるに賭けているらしいが、俺はどうしようか。
しかし、売れる売れないにしても。
ああ、きっと楽しいに決まってる。
どうせ限られた人生だ。存分に生きよう。存分に楽しもう。