- ナノ -






俺はオルテ帝国という名の国に生まれた。
チョビ髭が国父と称えられてたりする。よく分からない世界背景の地域だ。
そのチョビ髭の銅像とか、この国の国民である俺も見たことがあるのだが、どうみても薄らいだ記憶に微かに残るヒ、ヒ、ヒト、ヒトーとかいう人物にしか思えなかった。

偶然だろうかと最初は思ったが、どうにも前世の経験を鑑みるとそうは思えなかった。
前世は織田信忠として鬱々とした人生を歩んだわけだが、その折この世界へ漂流者として流れ着いたときは同じ漂流者や敵対する廃棄物たちは、確か著名人が大勢いたはずだ。
前世の前世……面倒だな。前々世で学んだ人物や、知らないがとりあえず性格の捻じ曲がったような人々。
きっと何処かで名を残しているであろう者たちが此方へ流れ着いていたと記憶している。

今だったら、俺なんて有名人と語り合ったんだ! と感動できるが、残念ながら前世のときは欝っていたのでそんな感想はもてなかった。まったく、俺はなんて無駄な日々を過ごしていたんだ……。ちょっと過去の自分ぶんなぐりたい。
今の俺だったら絶対サイン貰ってるね。廃棄物たち以外で。廃棄物はいかん。だってあれ、マジ殺戮しか考えてないよ。怖いよ本当。
英雄として扱われてる人が殺意むき出しで全力で、しかも人外の力を使って心臓を抉りに着たら、そりゃ怖いよ。実際怖かったよ。前世ではそんなこと思う脳の許容がなかったけどさ。

そんなわけでこの国父ヒトーさんも(なんか違う気がするな)きっとそういう人なんだろう。
国を作ったってことは繁栄させる気あるんだろうし、きっと漂流者だろうな。周囲の国々を壊滅させていった行動は廃棄物っぽいが。

そもそも、前世で既にこの世界にいたくせに、何故こんな大それた(一から国を造ったわけだし)人物を知らないかといえば。
俺、そのときにはもう寿命でおっちんでるんだ。
確か、50歳ぐらいまで生きた覚えはあるんだが、それ以降この世界の行方は一切知らない。
脳内に残っているこの世界の光景は廃棄物により荒廃し、一部の人間や亜人が生き残って細々と生活している光景だ。
ある意味、こんなに豊かじゃなかったし、恵まれていなかった。

ってことは、恐らくこの“世界”は前世のときの“世界”よりかなり後なのだろう。
だから俺の死後に来たらしいこの漂流者のことは存じないわけだ。もちろん前世の俺がいたときにはオルテ帝国なんてものはなかった。


ここで一つ豆知識。
転生ってのは、時代を跨ぐらしい。どうでもいいな。

俺は一般的なオルテ帝国の住人として産まれた。
裕福なわけではなく、どっちかっていうと貧乏な家だ。
それでも愛してくれる両親がいて、温かい周囲の住人がいた。
なんというか、二度目の転生で内心空っぽだった俺だったが、その人たちのお陰で今のような正常さを取り戻せたといってもいい。

前世で与えられなかった。鳥の羽のような柔らかい愛情。
それが、もう嬉しくて堪らなかったのを覚えている。

そうして、もう一度生きることの希望を持った。
過去のことは、変えられない。まぁ、酷いもんだった。
だが、未来は変えられる。綺麗なもんだ。真っ白だもんな。

前世で与えられなかったものを与えられ、前々世で失った生活を再び手に入れた。

俺は、もう、ホント、嬉しかったよ。
でも、まぁ人生そんなに順調には行かないわけだ。