- ナノ -
はち 


それから私たちは色々な人の運命を変えていった。
その中にはもちろんリンネがいたし、ジュードやカノン、カバネラもいた。
その運命の中に、私は掠りもしなかった。
いや、確かに時折話は出てきたものの、私の死体が血を流しているリンネの家は電話線は繋がっていないし、誰も彼もカナリアの安否は知らない。

そこで私の目撃情報だ。
私は、シセルと出会うまでの空白の時間がある。
その時間にカノンの妹のカナリアを見たと証言したのだ。
どこにいるかと問い詰められた際に、オナクナリ通りでお腹を抱えていたからどこかのお店でトイレを借りてるんじゃないか。と証言しておいた。
その後は警官たちに捜索をしてもらったらどうだと提案した。
無事を確認すると、途端に安堵したのか、しかし楽観は出来ないと早速カバネラから捜索の命が出た。
さて、いつになるのだろうか。カナリアの死体が出てくるのは。
きっと、そのときにはドライアイスのように冷たく硬くなっているだろうが。

「カナリア? どうした」
「……いいえ。なんでもないわ」
「ならいいが……そういえば君は小さなレディの妹であるカナリアと同じ名前だな」
「そうね。これも何かの縁かもね」
「ところで、私はカナリアに関してなんの情報も得ていないんだが」
「あら、カナリアちゃんは、オナクナリ通りのどこかでお腹を抱えているんじゃないの?」
「分かっているだろう。“君”のことだ」

今まで共に行動してきて、死を救ってきた人間の情報はあらかた入手してきた。
それが次の舞台への重要な情報であり、それが事件が大きく関わってきたからだ。
しかし、私に関する情報はそれに当てはまらなかった。いうなれば、必要ない情報だったのだ。
私は事件に関係している。といったが、今まで私には掠れてもいない。
なぜならば、最初からこの“姿”の人間はこの世界にいないからだ。

「事件に関係するようになったら言うわ。それじゃ駄目?」
「ああ……私は、“君”について知りたいんだ」
「!」
「ここまで来れば赤の他人でもないだろう。仲間のことを聞くのはいけないことか?」
「……私のこと殺したくせに」
「う……それはそうだが」

記憶を失いながらも、懸命に自分を辿る彼の姿。
それはリンネにも似た熱意を感じた。
諦めない、前に進む。
私が失ったものだ。

「……私は」

私が失ったもの。
5年前に失ったもの。
10年前に失ったもの。
前世においてきたもの。

本当のことは喋れない。
なら、本当だけど、もう無くなったものの話をしよう。
前世の――普通の女の子だったときの身の上話を。

「私はね、学校に通っていたの」

mae ato