- ナノ -
ろく 


私は結局、魂だけになった自身を使って物語を見て回ることにした。
幸いにも、小物一つ動かせないというのに“移動”には長けていたらしい私の死者の力は、隣のマダムの家の電話線を使ってさまざまなところへ行けた。
そうして私はとある場所へ行った。

雨が上がって間もないその場者は、小さなゴミから大きな粗大ゴミまで大量に転がっていた。
山のような取り付けるモノの中で移動手段には事欠かないこの場所。
この一夜の物語が始まって、そうして小さな命が終わった所。

そうして、死者の案内人がいる所。

「! 貴方は……」
「ああ、この姿じゃ分からないかな」

コアをつなぎ合わせ、死者の世界に現れたのはクネクネと動く電気スタンド。
オレンジ色のそれは電灯をチカチカとさせながら、冷静にこちらを見ている。
心が除けないのは彼が何も考えていないからか、それとも堅く心を閉ざしているからか。

「この姿なら……分かるかな」
「!? カナリア様!? ど、どうして、亡くなってしまわれたのですかッ!」
「ふふ、そういう貴方もね。ミサイル」

私は他の死者と出会ってしまったときの対策として、今の人生の姿ではなく前世の姿で彷徨っていた。
死者の世界での姿は変幻自在。自分の信じた己の姿が現れる。
だから彼はミサイル自身の姿ではなく、クネリという電気スタンドの姿で死者の世界に現れているのだ。

前世のときの一般的な日本人の姿から、今生の黄色い髪色が特徴的な10歳の少女の姿に形を変える。
そうすればミサイルは私を10年間のうちで忘れていなかったようで、急に慌てた様子になり、姿も老犬に様変わりした。
私が冗談めかして笑うと、ミサイルは複雑な胸のうちを言葉にせずとも吐露し、押し黙ってしまった。

「……ねぇ、聞かせてくれないかな。貴方が歩んだ、この10年間のことを」
「……知って、おられるのですか。カナリア様は……いいえ、貴方は――」
「私は、カナリアだよ。ただ、ちょっと貴方とは違う方法で未来のことを知っているだけで」

頭を撫でると、今とは違う肌触りが手を伝う。
10年間で、随分と老けた彼は、毛の質も若干落ちたようだった。
それでも愛らしい我が家の愛犬には違いない。
主のために命をはり、そうして今10年の時を待った。

「カナリア様……」
「そう、しんみりムードにならないでよ。夜はこれからだよミサイル」
「……はいッ!」

元気よく返事をする姿は今と変わらない。
彼は10年間、どんな気持ちで過ごしてきたのだろう。
きっと、辛く、厳しい日々だったはずだ。
その10年間はあと少しで消え去る。彼の存在と共に。
今現在いるミサイルは残るだろうが、10年前の言わば別世界の彼は更新された世界では残れないのだ。
彼はそれを後悔も何もしないだろう。己が使命を全うしたと、寧ろ喜ぶことだろう。
私も、そうであればよかった。
更新された10年後、何も残らずに消え去ってしまえればいい。
でも、そうはならない。私は残る。前世で知った思い出と共に。それだけは消えはしない。

ヨミエルも、覚えているだろう。
我が子を殺した真実を。

だから、私は。
私は、何もしないではいられない。

ミサイルのように、見ているだけは出来ないのだ。
私も、そろそろ行かなくては。

mae ato