- ナノ -
よん


雨が降っていた。
習い事から帰る途中で降り始めたその雨は、場所を移動するに従って小雨になり、そうして止んだ。
降るとは思っていたけど、本当に降るとは。

リンネお姉ちゃんに、仕事に行く前に傘を持つように進めた。
彼女は、天気予報でも雨は降らないって言っていたからといって、傘を持っていなかった。
私は自分用に買った折りたたみ式でない傘を持って習い事に行った。
折りたたみ式の傘は黒電話の上にぶら下がったままだ。それでいいはずだった。

「……」

先ほど、リンネお姉ちゃんから塾に電話が掛かってきた。
現在地を聞いてきたので、家に帰る途中だと言ったら、彼女は家に帰るなという。
オナクナリ通りにカノンがいるだろうから、合流してキッチン・チキンに着てほしいとのことだった。
私は、うん。とだけ応えて電話を切って、そのまま家へ向かった。

リンネお姉ちゃんには悪いが、私はこの物語に巻き込まれる予定はなかった。
5年前とは違うのだ。5年前は筋書きがなかった。だが、今回はキッチリとある。
リンネは今夜助かった――いや、生きている。だからそういうことなのだろう。

習い事が終わっても、寄り道を食ったりしてなかなか家に帰らなかった。
カノンには友達と予習をするから少し遅れるといってある。きっと、それはミサイルにも聞こえたことだろう。
だったら、私のことを気にせずに走って行ってくれるはずだ。カノンの道を開きに。

家についてみると、ドアが薄く開いていることに気付く。
気付かれないよう、ゆっくりと家に入り、そうして明かりがついたまま誰もいないリビングまでたどり着く。

今さっきまで誰かいたような雰囲気に、水に浸かった受話器と赤いヘッドホン。それから散らばっている小物など。

「……来る、かな。ううん、来る。絶対に来る」

私はソファに座って、一人で待った。
ジッと、ただ、ずっと。
外では何が起こっているのだろう。時間は刻々と過ぎる。私の知らないところで知らない物語が進んでいる。

何も考えずに待つ。
ずっと、この日を、この夜を待っていたのだ。
することは、やることは決まっていた。
だから待つ。待つしかなかった。あの人が、来なくとも。


だが、運命は交差する。
私だけが例外ではなかったのだ。
運命に弾かれ、運命に流される私の元へも、運命を辿った先にいるあの人が訪れた。


「――木箱はどこにある?」

mae ato