- ナノ -
さん


「カノンお姉ちゃんっ、一緒にミサイルの散歩行こうよ!」
「うん。いいよ。久しぶりにカナリアと一緒に行けるなんて、カノン嬉しい」
「私も嬉しい!」
「ワンワンッ!」

リンネお姉ちゃんの家にミサイルを含めて三人と一匹で住み始めて、もう五年になる。
そして、アルマとジョードがいなくなってからも、同じく五年。
私は今年10歳になり、カノンは12歳になった。

お父さんには時折面会に行っている。
彼は、記憶どおりやはり自らが妻を殺した――しかも子供たちの目の前で。そういって逮捕され、今はこうして刑期を過ごしている。
だが、それも後もう少しだ。今は11月、あと一ヶ月ほどで、彼は死ぬ。この国で長らく行われていない死刑という刑罰によって。
だが、その“夜”は私が待ち望んだ時でもある。

彼らの悲しみが流れる夜。人々の過ちが正される時。10年間が、清算される。

「あ。リンネお姉ちゃんだ」
「本当だ。おねえちゃん! こんなところで何してるの?」
「あっ……! ちょ、ちょっとね。えーっと、そう! 車の速度を守らなかった奴がいたから、そいつを逮捕するために捜査してるの!」
「へぇ、すごい。あ、白い変な人だ」
「カバネラさん、ね。一緒に捜査してるの」
「……そっか。すっかりリンネお姉ちゃんも刑事さんだね」
「ワンッ!」

カバネラ。今では特別捜査班の班長にまで昇りつめた刑事だ。
彼には随分と世話になっている。五年前からは、特に。
彼はお父さんがお母さんを殺した。という形で解決している事件をある意味では一人で捜査している人だ。
リンネも独自で捜査はしているようだが、彼は本気だ。その人生さえもかけようとしている。
だからこそ、“あの場”で唯一事件を目撃していた私と彼は、共通の絆で繋がっていた。
酷く丈夫な、しかし赤く濡れた糸で。

彼は外部の“アヤツル者”の可能性を見出し、そうして私もそれを目撃したと証言した。
しかしそれは母親の死の直前を見た子供の証言であり明確な証言ではない。
だから、それはキチンとした証言として取り上げられはしなかった。だが彼だけは違った。
それを信じ、そうして一人で捜査をし始めた。

リンネも、今年の秋に念願叶って警察になることができた。
まだまだ新米だが、その熱血具合で熱心に仕事に取り組んでいる。
もちろん、ジョードに関する事件のことも積極的に取り組んでいることだろう。

リンネは、優しい。カノンやジョード、カバネラも皆優しいが、彼女の優しさは力強さも含んでいる。
それが、嬉しい。前へ前へと進もうとするその姿勢が私は好きだった。
私にはないその姿が、私が5年前に忘れてきたその熱意が。

「おや。これはこれは、可愛らしいレディが二人。こんなところになんの用だい?」
「カバネラさん。どうしてここを捜索しているんですか?」
「うん? ここが現場だからだけど……、何か思い当たることでもあるのかい」
「“あっち”が……気になります」

そうか。と言って私の頭を撫で、リンネやカノンへの挨拶もほどほどに捜査官を数人連れて私が指差した方向へ足を運ぶカバネラ刑事。
それにリンネが驚いて声をかけると。ちょっとラブリィな用だよ。といって独特の踊りをしながら去っていく。
髪に残った暖かな感触に、目を細めつつ、首をかしげる彼女たちに言う。

「カノンお姉ちゃん。行こう。ミサイルが待ちきれないって」
「あっ、そうだった。散歩中だってこと忘れてた。じゃあねお姉ちゃん。行こうカナリア、ミサイル」
「ワンッ!」
「うん」
「待って、カナリア!」

リンネは眩しい。過去を追う人々とは違う。前を向いて、ただ光に向かって真っ直ぐ進んでいる。
私の身長にあわせるために屈んでくれるリンネは、キラキラとしている瞳で私を見て微笑む。

「大丈夫? 何か悩んでたりしない? 何かあったら、お姉ちゃんが全部聞いてあげるからね」
「……うん。平気だよ。ありがとう」

私が応えるように笑顔でそういうと。ならよし!といって、抱きしめてくれる。
痛いぐらいのその力強さにつかの間その身体に身を預ける。
大きな人。大好きな人。

「カナリア! 早くしないと先行っちゃうよー!」
「待ってー! ……じゃあ、行くね」
「ええ。転ばないように気をつけてね」
「リンネお姉ちゃんこそ」

笑いあって、そのまま何事もなかったように別れる。
遠くからこちらを見つめていたカバネラに目線だけ返して、そのままカノンとミサイルのところへ走っていく。
温かい温度、温かい瞳、温かい言葉で私に元気をくれる人。
でも、この人にだけは、絶対に本当のことは、言えない。

あと少し、カウントダウンまで後――


mae ato