- ナノ -
に 


何かが変わると思っていた。
彼は、きっと私がちょっとした悪足掻きをしたぐらいでは、ただ想定外のことが起きただけと、また死者の力を使って物事を変えてしまうだけだと思ったから。
例えば、お母さんが帰ってくる直前に不自然な動きですばやく銃の引き金に引かれた糸を、私がどうにかして切ったとしても、彼は死者の力でまた同じ細工をして次の瞬間には母の命を奪っていただろう。
他のことも同じだ、だから、命を差し出せば、彼も考え直してくれるだろうと。

命を張れば、やめてと叫べば。
身代わりに身体を張れば、どうにかなると思っていた。
だが、違った。
彼は容赦なく母の命を奪っていった。

私が死ねば。
あの人と話が出来たかもしれない。
もしかしたら、あの人を説得できたかもしれない。
貴方の家族は、ここにいますと言えていれば。

「(パパ、パパ)」

彼は考え直したかもしれない。
復讐をやめてくれたかもしれない。
でも、私の声は届かない。

知っていたはずだ。何もかも。
何もかも知っていたくせに、何もできなかった。
家族の幸せを守れなかった。

お父さんはお前のせいじゃないと言った。
カノンお姉ちゃんも、自分も悲しいというのに、私を慰めてくれた。
リンネお姉ちゃんも私と一緒に住もう、きっと楽しいよ。と抱きしめてくれた。

違う、違う違う。違うんだ。
私は、私は。

「心配するなカナリア」
「カナリア。お姉ちゃんがついてるからね」
「私、絶対に刑事になる。刑事になって、手柄を立てて、カナリアに喜んでもらうんだから!」

「……うん。ありがとう」

罪悪感が身を軋ませる。
後、何年だ。後何年待てばいい。
後五年。後五年だ。

彼らを、家族を、あの人を、苦しみから救えるまでの、長い長い年月。
せめて。
せめて笑顔でいよう。
彼らが心配しないように。彼らが私を気にしたままでいないように。

mae ato