- ナノ -
さいご 『一緒に、幸せになって』


戻った現代の――五年前。
過去の10年間で、丁度アルマが殺された年。私が、諦めた日。

その年が、ヨミエルの刑が終わる時だった。

ヨミエルの運命を変えた場にいた私、シセル、ミサイル、お父さん、パパはそれぞれ10年間の記憶を持ち越した。
パパは自分の犯した罪を受け止め、独房へ入った。
お父さんは足を痛めてはいたものの、それも完治して優秀な刑事として活躍している。
ミサイルは、まだ生まれていない。出会うにはあと5年ほど必要だろう。ちょっと寂しいが、楽しみでもある。
シセルはお父さんの家へ引き取られ、飼い猫として暮らしている。身体がちっとも大きくならない以外は彼も楽しそうだ。

私――私といえば、ママと一緒にいた。
ママは、パパが死ななかったことで運命が変えられ、死ななかった。
パパが犯した罪は重く受け止めていたが、それでもパパを愛し、私を愛してくれた。

パパがいなくてママは私の育児が大変そうだった。
そんなときに助けてくれたのはお父さんの家だった。
意外にも近くだったお父さんの家。散歩中にばったり出会い、そうしてなんだかんだといって、第二の我が家のようになっていた。
だから、今でもお父さんはお父さんで、お母さんはお母さん、お姉ちゃんはカノンお姉ちゃんだった。
リンネもジョードの弟子としてよく遊びにきているらしく、その中で仲良くなれた。

ヨミエルの刑期は、10年ではなく5年になった。
それは、ヨミエルに罪を犯させてしまったという意識のあるカバネラやジョードが積極的に弁護士や証拠を集めてくれたからだった。

ママはパパの面会に何度も行っていた。
私も連れられていくことがあったかもしれないが、全て拒否した。
赤子のときは散々泣き叫んで、大きくなってからは、普通に行きたくないと拒否した。
ママは心底困っていたが、私はそれでいいと思った。

「にゃぅん?」
「シセル……うん、あのね……うん……」

なぜかと聞かれると、答え辛い。
それはお父さんにも聞かれたことだ。
というか、シセルの言葉が分かってきている自分が怖かったりするが、今はおいておく。

なぜ逢いに行かないか。
答え辛くはあるが、簡単だった。

「……は、恥ずかしいっていうか」

だって、考えてみれば私は何歳なのだろうか。
確かに身体年齢はまだまだ幼いが、前世を持っているというのに、あの醜態はないだろう。
思いっきり幼児になっていたし、泣いていたし、我侭言いたい放題ではないか。
ヨミエルにあってきちんと話したのはあれきりだ。
その後は赤子だったし、会うのを拒否したし、なんというか、どんな顔をしてあっていいのか分からない。

一人頭を抱えていると、耳ともでザリッとした感覚がした。
びっくりして顔を上げてみると、ベンチで隣に座っていたシセルが耳をなめていた。
視線が合わさって、見つめていると、なぅんと鳴かれた。

「……うん。頑張る。私、頑張れるね」
「にゃーん」

頷くシセルに、笑みが漏れる。
忘れてなかったんだ。あの勇気をくれる言葉。

勇気をくれたから、私も頑張らなくちゃいけないんだろう。

前を進む人たちを見て、羨んでいた。
そうして、眩しく思っていた。
でも、そんな人たちは、私の手を引いていってくれた。


ぴょん。とシセルが飛び跳ねる。
それと同時に、刑務所の扉が開いた。
そこから、笑顔のママと、黄色い髪の彼が見えた。

胸がドキドキと煩い。

「カナリア」
「パパ」

差し伸べられた手に、私も手を伸ばす。
あのときより一回り小さくなった私の手のひらと、少しだけ老けた彼の手のひらが重なった。

「おかえり」
「ただいま」



「ママもおかえりー! もう遅いよー……って、泣いてたのママ?」
「えっ! そ、そんなことないわよ。ちょっとパパと会えるのが嬉しかっただけよ」
「ママったら泣き虫だなぁ。ね、パパもそう思うよね」
「そうだな。ママは泣き虫だからな」
「も、もう! ヨミエルまでそんなことを言うの?」
「ふふ、ねぇママ。今、幸せ?」
「カナリア? 幸せに決まってるじゃない。うん。ママ、今すごく幸せよ。
 カナリアがいて、ヨミエルがいて。幸せじゃないわけないじゃない」
「うん。そうだよね。ふふ、ねぇ、パパも、今幸せ?」
「……ああ、幸せだ。すごく、すごく幸せだ」
「私も! 私もね、二人が幸せだったら、すごく幸せだよ!」

「にゃーん」
「……シセル」
「?」
「ありがとう」
「にゃぁん」

mae ato