じゅうさん 『連れて行って』
「お父さん……」
「カナリア……よかったな。パパが見つかって」
「! う、うん。あの、その」
「だが、忘れるなよ。カナリア。
お前のお父さんは俺で、お母さんはアルマだ。そしてお姉ちゃんはカノンで、リンネだ」
「う、うん、うん! そうだよ、私のお父さんはお父さんで、お母さんはお母さんで、お姉ちゃんはカノンお姉ちゃんで、リンネお姉ちゃんだよ!」
「そうだ。……それから」
「なに、お父さん」
「五年前。俺は、カナリアが死ななくてよかったと思ってる」
「……で、でも」
「怒ってやろうか?」
「!」
「はは、嘘だよ。……きっとカナリアが死んでいたら、俺もアルマも、カノンだってすごく悲しんだだろう。
自分の命を粗末に扱うんじゃないぞ」
「……分かった。が、頑張る」
「ふぅ。まったく」
大きな手で頭を撫でられる。
やっぱり久しぶりに感じた手の感触で、懐かしい感覚に襲われる。
心地よくて目を細めていたら、持ち上げられて抱きしめられた。
なんだかいっぱい抱きしめられているな。と思うが、なんだか嬉しかった。
「ミサイル!」
「「はいッ!!」」
二つ同時に元気のいい声が聞こえる。
それに私以外の二人と二匹が首をきょろきょろとしていると、私の腕の中に一台の電化製品が飛び込んできた。
「カナリア様ッ!」
「ミサイル! ふふ、また会えたね」
「ええ、嬉しい限りです!」
電化製品は元気よくそう応えると、一度見たことがある老犬の姿に外見を変化させる。
「え、ええ! な、なんですかその老犬!」
「老犬とは失礼な。私は貴方ですよ。ミサイル君」
「「え、えええッ!?」」
若いミサイルと、シセルが同時に絶叫する。
それもそうだろう。ミサイルにとっては未来の自分が、シセルにとってはクネリの正体が分かったのだから。
それからは種明かしだ。
シセルはなるほど、と納得し、他の者たちは若干困惑気味のようだ。
10年前が2度繰り返されているのだ。確かに脳内処理が追いつかないのも無理はないかもしれない。
しかし、ここで重要なのはそこではないのだ。
「ミサイル……お別れだね」
「はい……最後に、カナリア様の笑顔が見られて、私は幸せでございます」
「うん。私も、ミサイルにお礼が言えるよ。
ありがとう、ミサイル。貴方のお陰で、新しい10年間がある」
「ええ! 私はカナリア様とカノン様の道を開くために頑張ってまいりましたから!」
今と変わらず、この忠犬も、ずっと前を見て進んできたらしい。
それが未だに羨ましかった。
いいや、羨ましがらずに、もう自分で目指すときなのだろう。
「さぁ、戻ろう。新しい未来へ」
私は、昔と同じように、前に向かって進めるでしょうか。