- ナノ -
▼04

プランさんから頼まれたことは、以外に金のかからない――というか、観賞するだけなら一銭もかからなそうな提案だった。
一番綺麗な景色なんて、なかなか悩む。なんていったってこのシュテインビルドはこの街自体が綺麗といえば綺麗だ。
人工的な光に立ち並ぶビル。見慣れたものなので今更感動などはしないが、それでも綺麗なことに違いはないだろう。
うぅむ。と悩むと、悩みの原因を蒔いてくれた元凶は必要以上に悩んでいる(と思われたらしい)俺に気を使って困ったような表情(やっぱり無表情だが)をしている。
そうして“俺が綺麗だと思ったところで初めに思いついたものでいい”と進言してくれる。

しかし、と悩みを隅で考えつつ、眼前の彼を盗み見る。
何度見ても(同じ顔だというのに)ダンディーな人だ。
服装や言葉遣いが理由なのだろうが、俺とのこの差はなんなのだろう。
俺だって同様の容姿をしているのに、彼は俺から見ても、きっと周囲から見てもかっこいいと判断される外見をしているのに、俺は、まぁとりあえずかっこいいとは思われにくいとは思う。
なんていったって、仕事で駄目だしされて落ち込んで、同じ顔のプランさんをドッペルゲンガーだと思い込んで逃亡し、最後に助けられたのだ。この差はなんだ。

少し逸らしていた視線をプランさんに戻す。
彼は俺と同じように、どこか視線を逸らしていたのかと思えば、ジッとこちらを凝視していた。
そうだ。彼は俺より目力が強い。見つめられたら、目を逸らせなくなるような、胸を打たれるような眼力を持っている。

「う、あ。そ、そうだ! あそこなんかどうだ!?」
「あそこ、とは」

強い眼力に改めて見つめられて、思わず動揺する。
別に悪いことをしているわけではないのだが、彼に見つめられると自分が何かしていないかと心配になるのだ。緊張する、といったほうが正しいか。失敬なことをしてはいけない気になるのだ。仕事の上司以上に硬くなる。
あそことはどこかと聞いてくるプランさんの視線からどうにか逃れて、あそこなんだけど! と指をさす。
その先にはモノレールに乗って到達できる、ビルの更に最上階、の上の屋上。
アソコは屋上にも店が開店しているところで、そこまで値段も高くない。
時間は既に12時を回りそうだが、朝の4時まで営業しているし、軽いものや酒も出ている。
とはいっても、普通のバーなどより高値なので最近はめっきり足を運んでいない場所だ。

ほどほどに上品であるし、きっとプランさんが行ってもそこまで違和感もないだろう。気品さの問題で、しかもプランさんのほうが上品であるという話だが。
なんとなく、だが。プランさんは金持ちでしかも良家の出だと思う。
着ているものは己にあった金の掛かっていそうな、しかしそれを見せびらかせない上品さをかもし出しているものだし、オールバックなんて人を選ぶ髪型を思いっきり自分のものにしている。ハットも馴染んでいるし、元の主のところへ帰ってきて帽子さえも喜んでいるような気がする。
そして硬いが偉そうな口調でない言葉遣いだし、表情は動かない。でも感情は色彩豊かっぽいし、こちらの言うことにいちいち反応する。それから目線で語るところなんか、人の上に立っても揺るぎなさそうで、こちらが変に威厳を感じてしまう。
仕事とか、何してんのかな。と勘繰ってしまうほど、予想が出来ない人だ。

「……連れて行ってもらっても」
「ああ、もちろんだ!」

控えめに問うプランさんに大きく頷く。
素性は知れない人(まぁ、あったばかりであるし)だが、悪い人では絶対にないと断言できる人だ。
なんてったって助けてくれたし、決して己を上に立たせようとしない。
彼のように特出して金を持っていたり、身分がよかったりする人間にはそういう奴が多い。
だが彼はそんなことはまったくないし、寧ろこちらを気遣う面さえ見せる。
精一杯礼をさせてもらおうか。と意気込んで、こっちだ。と案内を始めた。

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