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「ちょぉおおおお! プランさん出てっちゃいましたよ!?」
「(ちょっと待て……確かここに)」
「追って止めてきます!」
「(待て! それではタイガーが二人いることを自ら知らせているようなものだろう)」
「じゃあどうすりゃいいんですか!」
「(こんなこともあろうかと、プランさんの目と同期して映像を映し出せるようにしていたんだ)」
「マジっすか!」
斉藤さんの言葉に、彼の方へ飛びつく。
さっきまで部屋には元上司だったロイズさんがいた。プランさん、斉藤さん、俺で話し合っていた時にやってきたのだ。
プランさん、俺の姿かたちをしたアンドロイド。マーベリック事件で俺とバニーが破壊した敵だったロボットだ。あの時は皮の部分が剥がされていて誰だが判断がつかなかったが、斉藤さんに造り直してもらったZ-01は記憶を少し飛ばしてはいたが、プランさんだった。
本当に、あの時は嬉しかった。自分の中であの人を壊してしまったんじゃないかと、殺してしまったんじゃないかって言う不安がこびり付いていた。だから、目を開けて俺を「虎徹さん」って呼んでくれた時、本当に嬉しかったんだ。
でも、あの人が二度目に目を覚ました時に口にしたのは“自分をスクラップにしろ”ということだった。
一度壊れて、頭でも可笑しくしたのかと思った。でも言ってることは確かにその通りで、だからこそ頭に来た。
プランさんは、自分を機械だと断言していた。確かに、形作ってるのは金属かもしれない。けど、プランさんはプランさんだろ。一度悪用されたからって、破壊しなくちゃいけないなんて、そんな論理通じるはずがない。
あの人は反省して、後悔しているのに、なんでそんなことしなくちゃいけねぇんだ。
「プランさん、なんで外になんか……!」
手に握りしめる。
ロイズさんが部屋に入ってくる直前に、それに気づいていたらしいプランさんが、俺を研究部屋の方へ押し込んだ。
扉を閉める前、仄かに安心させるように笑っていたプランさんは、やっぱり前と何も変わってなかった。
ドアの向こうから、耳を澄ませて話を聞いてみたら、プランさんが俺を装っていて驚いた。つぅか、俺あそこまで空気読めない奴じゃねぇよ。
でも、その後プランさんはロイズさんを伴って昼飯に出かけてしまった。驚いてその場で飛び出しそうになったが、プランさんが考えなしにそんなことするようには思えなかったのでどうにか踏みとどまることが出来たが、その行動が不味いことだというのは変わらない。
「(ほら、これだ)」
斉藤さんが取り出してきたのはノートほどの大きさの液晶だった。起動ボタンを押すと、映像が映される。
そこにはアポロンメディアの社内と、そこを歩くロイズさんが姿があった。
映像はゆらゆらと安定なく揺れていて、確かにプランさんの視線がそのまま映し出されていると分かる。
『おっ、虎徹じゃねぇか。今日はまたどうしたんだ』
その視界の中に、一人の黒人男性が映る。それは俺がよく知っている人物だった。
「げっ、ベンさん……!」
やばい、確かベンさんのことはプランさんは知らないはず。
ハラハラとしながら映像を見る。
なんでプランさん、一人で出てっちまったんだ。
『「貴方は、私に生きていて欲しいと思っているのか?」』
部屋に押し込まれる直前。プランさんが質問した言葉を思い出す。
散々そう言い続けたのに、まだ理解していなかったのか聞いてきた問いに、思わず叫んで返してしまった。
当然だ。当然に決まってる。
プランさんは、自分を破壊するように強く言う。
だが、アンタ、言ったじゃねぇか。
『「虎鉄さんに悲しい顔をさせたくなかったからだと思う」』
アンタがいなくなったら、俺は悲しんだよ。バカ野郎。
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