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起動に必要な充電がされたことで、プログラムが動き出し、機械の意識を覚醒させる。機械内に鳴り響く起動音と開ける景色に、シャットダウンする前の記録が再生される。
「プランさん!」
「(やはり自動起動プログラムが……私でも気づけない部分に組み込まれているのか、興味深いね)」
そして認識するのと同時に人物たちから言葉が発せられた。それは、鏑木・T・虎徹と斉藤だった。シャットダウンしてからどれほど時間が経ったのだろう。二人の様子に大きな違いが見られないことから、経過時間は少ないことは分かるが、はっきりとはしない。
良かった! と叫び起動早々抱きしめてくる彼に、咄嗟に突き返そうとしてその行動は意味のないものだと悟る。どうやら首の損傷部分は直してもらっていたようだ。既に人間と遜色ない様になっている首元を確認して、安心して彼を抱き留めた。
ブツブツと独り言のように囁いているもう一人の彼の言葉に、返答しようか迷い、今はいいだろうと思考を落ち着かせた。自分の身体のことならば、今のような自由が利けば伝達することが出来る。彼の目は好奇心に輝いていて、まるで玩具を手に入れた子供のようだ。
場所は前に起動した研究室のようだった。
「虎徹さん、すまなかった。突然起動停止をしてしまい、驚いたろう」
「そんなこと、なくはなかったが、プランさんが無事ってだけで俺は嬉しいぞ!」
涙ぐんでまでいる虎徹さんに目を細めてみる。機械には特に意味のない行動だが、人間は嬉しいときに無意識に目を細める。それが今は合っていると思ったのだ。その私の行動に斉藤さんが更に瞳を光らせる。余計なことをしたかもしれない。
自分の内部を今一度鑑みる。身体機能は飲食、排泄等を排除し人間と同じように行動可能。完璧には程遠いが人間に近い動作をすることが可能。内部の部品は当初とは八割が全くの別物。残りの二割は類似の部品を使用している。戦闘能力は改造された時の半分以下。脱走当初と同様かそれ以下。武器の類はなし。充電率10%。首からのハッチより未だ充電中。どうやらハッチは拡張されているようで、以前は細い接続線だったのが、現在では直径2センチほどの線になっており、充電効率が倍以上に早まっている。
そして、重要部分の記録に関しては、未だ不鮮明。鏑木・T・虎徹及び、ヒーロー等。関わりのあった者たちを思い浮かべても霞んだような破損した記録した思い浮かばない。しかし、どこに存在しているのか不明なこの自己意識の中にある記憶は、はっきりとしているわけではないが覚えている部分が多少あり。そう、例えば。
「虎徹さん。レーザーで負傷した場所は……」
「え? ああ。別になんともないっすよ! それよりプランさんの服を用意してきたんだ」
そう。ただ殺戮兵器――化け物となった私を壊す為に、バーナビーさんが私をレーザーガンで虎徹さんごと打ち抜いた。その瞬間のことを、そう。覚えている。ノイズが入り、頼みの自己意識の記憶もぶつ切れであるが、それでも彼を突き放したこと。それでもレーザーが虎徹さんを巻き込んだこと……それらを覚えている。
話を切り替えて持ってきたらしいバックから衣服を取り出そうとしている虎徹さんの肩をに手を置く。
「どうしたプランさ」
「失礼する」
申し訳ないが虎徹さんの言葉を遮って、肩を奥へ押し込んで胸を反らせる。左手で肩を固定し、右手で虎徹さんのベストのボタンを吹き飛ばすことなく外していく。一秒経過。その下のシャツのボタンを下から三つ外す。0,5秒更に経過。シャツをまくり上げて素肌を確認。0,5秒。計2秒。
そこには痛々しい跡が残っていた。
「うおおお!?」
叫び声が上がり、仰け反ったまま仰天した顔をしている虎徹さんに目線を転じる。
捲っていたシャツを戻し、服装を元に戻していく。
「行き成りすまなかった。……やはり痛々しいな」
「……」
服を肌蹴させられた本人は、目を丸くして大人しく服を直されている。ベストを直し終わり、再び彼に目線を向ければ、驚いたように言われた。
「プランさんでも、こんなことすんだな……」
「(素晴らしい手つきだったね)」
隣で斉藤さんもなぜか拍手をしていた。先ほどの行動のことだろうか。
驚く虎徹さんと感心しているらしい斉藤さんに返答する。
「貴方が負傷した元凶は私だ。心配するのは当然だろう? それと、私は機械だから人間が出来ない動きをすることが出来る。先ほどの行動もその結果だ」
ブルーローズ、ロックバイソン、スカイハイ、ドラゴンキッド、折り紙サイクロン、ファイアーエンブレム以上六名にTIGER&BUNNYの二名を攻撃、前者六名に関しては行動不能に、後者二名については殺害命令さえ受け入れていた。
今でもその命令の破片が見える。粉々になり、それでも残滓が存在していることから、かなり強い命令だったのだろう。
機械が人間を攻撃した。それは許されることではない。幸いに死傷者は出なかったものの、ヒーローたちは負傷し、鏑木・T・虎徹に関しては未だに傷跡が残っている。
仄かに自壊衝動が生まれる。
「何言ってんだ!」
しかしそれを止めたのは、やはり彼だった。
「言っただろ。プランさんは悪くねぇ。悪いのはアンタを利用したマーベリックとロトワングだ。アンタはしょうがなく俺たちと戦うしかなかった。そうだろ」
「……そうだな。そうかもしれない」
なら、と虎徹さんの目に開かれる。
「だが、このアンドロイドは確かに人間に対し牙を向けた。正当な理由がないにも関わらずだ。命令が下されていたことは何の言い訳にもならない。ただ無害な多数の人間に武器を振り翳した。それだけが事実だ」
畳みかけるように一気に言葉を発する。虎徹さんは見開いた目のまま、口を開けないでいた。
「……人間はやり直せる。だが、故障した機械は、人間に害があると判明した不良品は、壊すべきだとは思わないか。それが最善であると、そう考えないか」
虎徹さんと斉藤さんが何を考えて私を作り直したかは不明だが、これは紛れもない正論であり、私の想いだ。
人間に牙をむく機械は不要だ。そんなもの、叩き壊すに限る。
と、そこまで思考が飛んで、元に戻ってくる。
「いや、だがスクラップの前にヒーローたちに謝罪をしなくては。いや、その前にだ。私は最も重要なことを忘れていた。
鏑木・T・虎徹。すまなかった。私が人を害する命令に対抗するプログラムを持っていなかったばかりに、貴方を傷つけ――」
「だぁああああ! ちょっとプランさん黙ろうか!? あーもうッッ! そうだ、そうだった。俺はアンタに説教するはずだったんだよ!」
「(落ち着け。騒いでも彼には伝わらないぞ)」
「あーくそ! とりあえずプランさん服着てください!」
バックを渡され、礼を言って受け取る。
虎徹さんの興奮度が急激に上昇した。それを見て、自分の考えを彼に理解してもらうのには困難が伴うだろうことが予測された。
それとも、こちらの考えが彼に変えられるか。未だに感情が収まらないのかこちらに背を向けて頭をかき乱している虎徹さんと、それを宥めている斉藤さんを横目で視認しつつ、用意してくれたらしい服に着替えていった。
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