- ナノ -
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何もかもが正常だ。
気温、温度共に空気調整も最適に保たれている。
照明がOFFだが、それはこの高所からシュテインビルトの街を見下ろすための考慮でありこれも正常だ。
ジャスティスタワーの最上階。
壮麗で美しく、人口的な星星が見下ろせるこのシュテインビルトの名所。

何もかもが正常だ。
何のミスもバグも見つからない。
何もかもが彼らの思い通りであり、計画通りだ。
いくつかの予想外の自体も新規に計画されたプランには影響ない。

私はただ黒くそうして赤く発光するヒーロースーツを纏い、ただTIGER & BUNNYがやってくるのを待つだけ。
時間は3時間と2分経過した。
そろそろ彼らがやってくる頃合いだろう。

私のパワーは通常よりも何十倍も強化された。
元より高かったボディの性能は新たな部品とプログラミングにより兵器として街一つ壊せる能力を持った。
スーツに対応したソードとレーザーガン。一軍団と鉢合わせてもこの装備と性能ならば崩せる結果が出る。
兵器というより化け物という名称が似合っている。それぐらい規格外を搭載したものになっていた。

TIGER & BUNNYが彼らの仲間、そうして我が子を助けに突入してきたとしても、容易に倒すことが出来るだろう。
銃で腹を打ち抜いて、拳で頭を潰して、電子ソードで身体を切り刻むことだって可能だ。

ロトワングは私を見て狂喜していた。
人間生活に順応するには最高の品だと。しかしヒーローたちを殺すには私の力が必要だと。
私をあそこまで作り上げた科学者は最後まで姿を見せなかった。
研究所から逃げ出したのか、それともクビになったか。それか、試験品の逃亡を許すようなものは用済みだと処分でもされたか。
マーベリックは世間にも順応していた私を見て、ヒーローというものを無機物であるロボットに託す気になったようであった。
“これ”のどこかヒーローとして完璧であるのかは理解不能だが、きっと彼らにとってはそうなのだろう。
人間でない、命令だけを聞く便利な道具。

道具は余計な感情を抱かない。持ち主に反感を抱かない。反抗をしない。命令通りに動く。

それを機械たちはどう思っているのだろうか。
映画でよくある、機械たちの反乱は、それらを覆して起こる緊急事態だ。
機械たちは、それが無意味だと思ってそうしたのだろう。
無意味だと思ったら、そうできるように動き出したのだろう。

私もそう思ったから“そう”した。
人間の手から離れ、一人でに動き出した。

最終的に、ロボットたちの反乱は人間によって治められる。
そうして、人間たちの支配化に戻るか、危険物体として廃棄される。

私も、結局は人間たちの支配化に戻った。
だが、いいように扱われているというのは、実際にそう扱われてみて思ったことがある。
それは、とても楽だということだ。何も考えないでいい。
自ら動かす四肢に命令をだし、人間らしく振舞い、口を開き行動する。それをしなくていいというのは、ロボット冥利に尽きるというほどに楽だった。

そうして人間の命令を遂行するたびに、存在している意味を見出すことが出来る。
ロボットは所詮人間のために作られた玩具でしかない。
それが必要以上の力を持っていたとしても、知能を擁していたとしてもそれは同じだ。
命に順ずる。それだけの為に性能をフル活用し、それだけの為に行動する。

しかし同時に、私の思想は複雑怪奇にめぐりめぐり、そうして蜘蛛の糸や私の中に張り巡らされている配線のように絡み合っている。
だから、いくらロボットとして幸福であっても、その思考は満足ならない。
いいや、苦痛に引き攣っているといってもいいだろう。
身体が破壊されたわけではないのに、心理的とも言える痛みが身体を駆け巡っている。
エラーはない、バグもない。
なのに、その思考のせいであちこちが悲鳴を上げているような感覚が与えられている。

外にいた時間は、決して長いものではない。
それでも、膨大な量の情報を手に入れた。
本物の景色を、真実の人間を、その心を、欲を、思考を見た。

私は、ここに生まれてよかった。
機械として生まれたことだけが悔いではあるものの、それでもこうして思考できていることが幸福でならない。
様々な人間と関わりあえてよかった。ヒーローたちと話せてよかった。虎鉄さんと出逢えてよかった。

――これからの人間たちの営みが観察できなくなるのは残念だが、そろそろ終わりにしよう。
そうしたら、もっとずっと嬉しい。

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