- ナノ -
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虎鉄の一人娘である少女の珍しい能力によりマーベリックの描いていた設計図とは大きく外れ、ヒーローたちは記憶を取り戻した。
そうして虎鉄はヒーローたちの中でたった一人楓の能力を見ずにNEXTが解かれなかったバーナビーに思い出させるために飛び出していった。

そうして当初は犯罪者を捕縛するために用意された舞台である屋上に、ヒーローたち6人と虎鉄の娘が残される。

物陰に隠れ、様子を窺っていた私に、一つの命令が入る。
この状況なら当然であり、確実な命だ。

美しい光だった。
先ほどの楓がマーベリックからコピーした能力。
あれは、記憶を開放するときにはあんなにも綺麗な光と散り際を見せるものなのだと感動した。
それとも能力自体は同じでも、使用する人物の心を表すものなのだろうか。
そうだとしたら、とても彼女らしい美しさだと思った。

私も、それで解放して欲しいと思うぐらいには、見惚れていた。

何もかも、輝かしいものだった。
彼女の必死さも、虎鉄の旧スーツを着用し、必死で思い出させようと苦心する姿も、苦悩するブルーローズも、己の正義を突き通そうとするヒーローたちも。
画面越しにドラマでも見ているような疎外感。画面の向こうの夢の世界が目の前にある。それがこんなときになっても胸が躍り、そうして身体が動かなくなるような感覚に捉えられるほど何かが詰まっているような気がした。
何処か機械に異常があるような、気味の悪さ。どうして己がここにいるのかがまったくもって理解不能だ。

それでも、命令に逆らわない機械はない。
異常などあっても、命令に沿わないものはない。
いくら壊れようとも、いくらその命令が意に沿わないものであっても。
機械は命令どおりに動く。人間の手間を省き、忠実に、命令を遂行する。

「そういえば、どうして改竄された記憶の中にプランさんがいたんだろう」

幼い声が聞こえる。
直ぐに解析の結果が出る。記憶を探るまでもない、ドラゴンキットの声だ。
ヒーローたちとは偶然的なことや、虎鉄経由で認識がある。
とても尊敬できる、見ていてとても楽しい人間たちだ。

私の話題が出てきて、ドラゴンキットに同意する意見が漏れ出す。

「僕も思ったよ。ワイルドタイガーのことは納得できるとしても、彼の記憶を消す必要がない」

身体が自由に動かない。
既にボディは命じられた行動しか遂行しないように設定されている。
もどかしい。頭がショートするような、思考が暴れまわっている。
もどかしい。これがもどかしいというものなのだと強く思う。
身体さえ動けば、この場で自らの首をへし折って機能を停止させていただろうに。

「もしかして、あの人も被害にあってんじゃねぇか!? プランさんも虎鉄と同じ顔だろう」
「ええ!? そんな、プランさんは一般人じゃない! ああ、どうしましょ!」
「せ、拙者、連絡先知ってるでござるよ! 電話をかけて……」
「えっ、なんでアンタがプランさんの電話番号しってんのよ!」
「プランさんって、お父さんにそっくりな人のこと? 何かあったの?」

記憶が戻り、通常の様子と変わりない彼らの光景。
その中に己の名があるのを思って、耳を塞ぎたくなる。
その名を聞くたびに、私を心配する言葉を認識するたびに、猛烈に身をスクラップにしたい衝動に駆られる。
かられようとも、そんなことは出来ない。

私は、命令を実行するだけ。
お願いだ、そんなに私を呼ばないでくれ。
私は私を、裏切りたくない。

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