- ナノ -



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とりあえず、天上にいた神たちは全員死してしまったらしい。

…………悲しい。
悲しい、とここまで強く思ったことは初めてだった。

可哀想な子供達。自分達の選択が正しいと争いを始めて、結局それは報われることなく全てが無に帰した。
誰か一人の子の願いでも、報われていたら私はここまで悲しんでなどいなかっただろう。
しかし誰の願いも報われることもなく、それどころか自らの信念をかけて戦ったことさえも天上と共に消え去った。

ただ一人、私だけを残して。

子供達が、たくさん死んだ。
死神という職業柄、よく分かることだが、本当にみんな死んでしまった。

地上でのシステム調整を休んで、魂を転生の輪に流す作業を時折していたが、もう、悲惨なものだった。
みんなみんな死んだ。一人一人顔が見れないほどの大量の魂の数に疲れ果ててしまうほどに、死んでいた。
死んで流れる魂を泣きながら見送って、更に歪になったシステムをどうにか紡いでゆく。

このままでは本当に世界が滅亡してしまう。
それが、この世界の流れなのかもしれない。でも、もう少し頑張りたかった。
また一人になるのは耐えられない。
親が子離れできないんて。とんだ笑い話だった。でも、まだ生きている地上人たちがいた。
可愛い我が子が、愛しい営みを続けていた。

ヒュプノスは天上が滅亡する前に死んだ。
魂が転生の道へ歩んだのを感じたから、分かる。
ケロベロスは、この子が転生する直前にあったきりだった。新しい個体とは出会ってもいなかった。
あの子も天上が消滅する際に死した。

歪なシステムは歪な世界を生む。
本格的に壊れ始める世界に、嘆き悲しむのは身勝手だろうか。

しかしそんなことを言っていても話は始まらぬ。

永い時を一人でまた生きることになった私は、どうしてか私にほれ込んでくれた女と子を成し、新たなシステムを作った。
魂を循環させ、歪な世界を回転させる器官。
私の力、神の力を受け継ぐモノを集め、その力で世界を支える。

女は転生した天上の魂のようだった。世界のシステムが瓦解し、転生の循環も地上で繰り返されることとなった。
彼女を忘れるわけがなかった。彼女は大地の女神。豊穣の女神の母。
かつて地上人に殺された哀れな愛しい子。

しかし彼女自身はそれを覚えていないようだった。時折不可解そうに語る前世の記憶は、しかし女自身のものではない。

女を愛していないことはなかった。天上人だって、地上人だって、転生者だって、私の愛しい子だ。可愛くないわけがない。
しかし、それは女が望んでいた愛とは違ったものだっただろう。
彼女は私を独占したがった。しかし私はそういう愛で女に接しなかった。

だから、女が満足するまで一緒にいてやった。
小さな孤島をシステム循環の器官とし、女の寿命まで二人きりで過ごした。それぐらいの時間は、与えても良いと思った。
彼女は、死ぬ間際まで微笑んでいた。幸せだといっていた。しかしそれは本当なのか。

そうして女が残していってくれた子供達と共に、世界を回すシステムを作っていった。
幼い頃から世界を回すという自覚を与え、責務を与える。
神に比べ、とても軟弱な人だったが、それでも彼らは努力を重ねてくれた。
愛しい子らは、私に成果を示してくれた。

世界は破滅の道に直下する道をどうにか防がれた。
しかし、それも時間の問題だ。そもそも一人の神で世界を回そうというのがおかしなものなのだ。
創世力を、とも思ったが、あれは駄目だ。危険すぎる。
それに私にはその発動条件を満たすことが出来いない。

自らの無意識で設けたそれは、自らで突破することが出来ない、憧憬を篭めたものだったらしい。

世界は破滅へとゆっくりと歩を進める。
これから、何十、何百、何千年を破滅におびえながら生きなければならないのだろうか。
どうか、どうか子供達に、祝福を。
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