- ナノ -



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最初は寂しいとしか感じられなかった。

もう暗闇で一人、闇がお友達状態で、あの頃のことはもう思い出せないぐらい何もなかった。
後々の記憶が鮮やか過ぎて、あの何もない無の空間での無意味な時間が必要の無さゆえに圧縮されてなかったことにされそうなぐらいだ。

だがあの記憶は自分の中で病のように自身を苛み続けていて、どうしようもない寂しさがいつも心の奥で疼いている。


それが全身を埋め尽くし、泣いたりも喚いたりも出来ずにとうとう自らを引き換えに世界を作り出したのは記憶に鮮明に残っている。
どうしてそんな単純なことを思いつかなかったのだろうと思うほど鮮烈にしかし当然の提案のように閃いた世界創造に、私はためらいもなく己の力と魂を使った。

世界の作り方など知らなかった。
私は無に生まれた唯一のモノだったから、何も教えてくれるものもなく、ただそこに何かを作ろうという意志しかなかったのだ。
しかしそれは成功し、身体は足を支える床に、願いは個々に力と意志を持つモノになった。

それを見届けて、その愛する子供達に最大の愛を捧げ、そうして息だえたのもつい先日のことのように思い出せる。


そうして、何故か私は再び生まれ出た。

それは覚醒と驚きともに訪れた。長い間眠っていたかのような、ただ一瞬目を閉じただけのような曖昧な時間の末に生まれ出た己は『死を司る神』という、もうなんか、えー……という力を司るモノになっていた。

なんなのだろうか。死を一度体験したから丁度良いとか、そういう感じだろうか。なんだそれ。なんだそれ!
もうこりごりである。あの死は確かに自ら望んだものだったとはいえ、自ら生み出した子供達を、世界をあの身体で見守りたかったという意志は確かにあった。

くそ! なんで全部力使っちゃったかな! 絶対世界生み出したぐらいじゃ全て使い切んなかったとは思うのだが、まぁもう後の祭り、どうやら力は継承しないようだし、まったくもって不愉快な限りだ。まったく、ぷんぷん。


と、そうした二度目の生にぷりぷりと怒っていたわけであるが、私はどうやら「男」という枠組みとして生まれたらしい。

ふむ。世界を作ったとき、どうやらきちんとモノたちが作り続けられるようにそうした区別をつけたらしい。なんと偉い私。というかそんな器官をつける知能があったことに驚きである。一人だったから自覚はなかったが、もしかしたら万能だったのかもな私。


しかし今はもちろん違う。なんか、死を司るなんとかとかいう役職を貰った一モノである。

自分の作った世界で新参者として生きているうちに分かったが、どうやら私は神と呼ばれるものらしい。どうしてそんな名称を選んだかをその呼称を作った奴らに問いかけてみたら、『始祖の巨人に選ばれ作られた我らを名状するにこれ以上合致するものもあるまい』とドヤ顔で言われてしまった。
自分が作り出した子供たちながら、随分と傲慢だな……。まぁそんなところも可愛いのだが。馬鹿な子ほど可愛いというやつである。


とまぁそんな感じで世界が出来た直後に生まれたらしい私は他の神たちと交流を深めつつ、色々秩序のなっていない世界をどうにか継続させていけるようにシステムなどを作っていった。
さすがに即席だと色々不備があるようで、そういうところを治していった。にしても私の力、やっぱり残っていたか。しかも何でも叶えられるとかどうなの。怖いわそれー、馬鹿な子達もいるんだから、そういうい子達に渡ってしまったらどうするのやら。

創世力とか大層な名前を付けられたそれは、ケロベロスという新しい子を作って守ってもらうことにした。
自分に戻せないものかなーと思ったが、どうやらそれをすると身体がパーンとなるらしいことが判明したので、断念した。まだ私は死にたくないのだよ。
ケロベロスという子には自由のない一生を約束させてしまったが、それを謝罪すると『心配するな』と生まれたてでちっこい癖に男らしく答えてくれました。私は涙が出そうだよ……。


遊びに行くことを約束して、その後も世界のシステムを作り続けた。

死を司る神というのは、結構重要な役職だったらしくその分の仕事も頑張った。いやはや、作りたての世界を更に創造していくのは楽しいなぁ。というか、自分以外のものと触れ合えるのが嬉しくて堪らない。
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