- ナノ -



  ∞


「じゃあタナトスって始祖の巨人だったの!?」

驚きの声を上げる赤髪の少女、幼いが随分とプロポーションの良い子であるアニーミ。
天地融合が叶い、今は飛行船の中である。
というか、子供達も凄いものだ。こんな空を飛ぶ術まで完成させるとは、いやはや、今後どうなることやら。
窓から広がる地上の風景や空の光景が美しい。

どうやらこれもまた船のように苦手とするものがいるようだが。
時折心配になり、操縦を行うリカルドに声をかけながらも、興味津々な子供達に返事をしてゆく。

「正確にいうと違うな。私は始祖の巨人が死んだ後、意志だけが引き継がれた存在だ。
 始祖の巨人そのものの力や身体はもはや持ちえていない」
「でも、創世力はタナトスの元に戻ったんだから、始祖の巨人ってことで間違いないんじゃないですか?」

更に追求するように問うてくるのは銀髪の少年。背に背負う大剣が重そうに見えて、思わず手助けしたくなるような子だ。
ミルダというそのこは、しかし頭が冴えるようで、深いところを突いてくる。
アニーミという少女と違い、どこか畏怖を持ちながらこちらを見てくるミルダに手を伸ばす。

「!」
「怯えるな愛しい子よ。私は既に始祖の巨人ではない。始祖の巨人は寂しさに怯える一人だけの存在だった。
 今は違う。愛しい子等に囲まれ、子供達を見守るだけの存在よ」

頭を撫でるとビクリと身体を震わせる様は小動物のようだった。
安心させるために優しく頭を撫でて諭すように話せば、戸惑いがちにこちらを見る視線。

……可愛い。
この子達も、まだまだ儚い子供達だ。
大人になりきれていない、不完全な、愛い子供達。
加護欲が、こう、危ない感じに湧き出てくる。

小さく体が揺れるような感覚。
子供達は気付かないようなそれに、操縦をしている弟に目を向ける。
ふむ。

「それに、特別というものも見つけたからな」
「特別って、リカルドのこと?」
「ああ。愛い弟だ」

そういうと、先ほどよりさらに揺れる。
それにラルモと呼ばれる少女が気付いたらしく、首をかしげてリカルドを見た。
大丈夫だろうか……。

心配になりリカルドを見ると、横から引っ張られる。
そこには先ほどのラルモと呼ばれる淡い紫色をした短髪の髪を持つ小さな少女がいた。
そして耳に口元を近づけ、小声で何かを囁いてくる。

「それって、どういう意味でなん?」
「どういう意味とは?」

とりあえず小声で答えれば、嬉しそうに頬を緩ませる愛らしい子。
しかしそれを引き締めて、更に何か囁こうとすると、今度は違う方向から引っ張られた。

「だぁから。アンタは家族としてリカルドのことが好きなのか? それとも別の意味で好きなのかって聞いてんだ」

ラルモが小声で話していたのに比べ、まったく隠さずに告げられた言葉に首をかしげる。
それはベルフォルマという緑色の髪を持つ少年からの問いであり、率直なものだった。
何処か深刻そうに告げる青年に満たない少年であるが、その瞳を見つめながら考える。

と、体がまた揺れる。先ほどよりも大きい。
それに話に加わっていなかったセレーナという水色の髪をした、後ろで一つに髪を纏めた聖女が反応する。

「私は……」

言葉に詰る。
閉ざしていると、セレーナという少女が口を開いた。

「リカルドさんは、別の意味で貴方を好いていると思いますよ?」
「……」

別の意味。
弟はそうなのらしい。
一つ目を閉じて、答えを出した。

「――別の意味とはなんだ?」
「……あ、あのですね」
「もういい! お前らあまりタナトスに近付くな! 打たれたいか!」

狼狽しつつ答えようとするセレーナの言葉を遮り、怒鳴るリカルドはしかし、何処か泣いているようだった。
いや、泣いていないのだが。なんだろう。
それを他の子たちも感じ取ったのか、口々に気にすんなよ。とか、頑張れ。とかいう言葉を口にしている。
慰められているらしい。

首をかしげて、問いに対する答えは出来ないが、今いえる感情を答える。

「全ての生き物を愛してはいるが、その中でも一番愛しているのはリカルドだ」

その言葉を聞いた子供達が、こちらに目線を向ける。が、何故かその顔は唖然としている。
何か不味いことでもいっただろうか。
助けを求めるようにリカルドを見てみると、彼はこちらを恨めしそうに見つめながら、顔を真っ赤にしていた。

ううん。やはり子供達の心情を測るのは、まだまだ苦手のようだ。
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