- ナノ -



  ]II


というわけで腹に穴を開けながら小島へたどり着いたわけだが。

一機なら平気だったのだ。
普通に楽勝で壊せた。血族も殺す事無く救出できていただろう。どてっぱらに穴が開いていても、だ。

しかし――これだけあると、いかがなものか。

そこには大よそ10機を越えるギガンテス。ここまで大量だと、さすがに圧迫感がある。
しかも操縦している全員が血族であり、その燃料に転生者の子等が入っていると思うと、心穏やかではいられない。気がする。

「……理由はなんだ?」

たぶん、全部壊せる。しかし、手加減は出来ない。全員殺してしまうだろう。
なら、理由を聞こう。さすれば、対応も変わってくる。

沈黙が流れ、誰一人喋ろうとしない。
しかし誰かがポツリと言葉を紡いだ。

『貴方がいけないのだ』
『そうだ。貴方が』
『貴方が――』

――貴方が全てを愛するから。


……ふむ。む?
どういう意味だろうか。
確かに愛してはいるぞ? 皆愛しい我が子なのだから。
天上人も地上人も、グリゴリたちも、魔物だって植物だって、生きとし生けるものは全て愛しているといっても過言ではない。
寂しさから生んだとしても、しっかりと自らの意志で生きている子供達を、愛さないはずがない。

『貴方は特別を作らない』
『我らも転生者も等しく愛す』
『何も私達だけを愛せといっているのではないのだ』
『ただ、何にもならず、等しく愛されるのが恐ろしい』

……分からない。
どういう意味なのだろうか。
愛しいだけでは駄目なのだろうか。
愛している。いまこうして、殺されかけていても、死に掛けてさえいても、グリゴリの子等を愛しているし、転生者だって愛しい。
一番、特別。そんなもの、決めねばならぬのだろうか。

『貴方はその場その場で切り離される』
『それが私たちは怖い。等しく平等に愛されているというのに、突然裏切られる苦しみを知っているか』
『私たちは、そんな転生者たちを幾人も見てきた』
『私たちは、そんな貴方の愛に救われ、蹴落とされるものを幾人も見てきた』

裏切られる。
ふと、思い出す。

私が地上へ堕ちるときの、弟の姿。
あれは、裏切られていたのではないだろうか。

そう考えると、まったくの意味不明だった子供らの主張の意味がだんだんと伝わってきた。
私は、なんにでも愛を平等に持っている。
それは天上人も地上人も、グリゴリたちも、魔物だって植物だって、生きとし生けるものは全て愛している。

だが、その中で、何かを切り落とさなければならない選択を私が迫られたとき。

そう、あのとき。
ヒュプノスが、私を必死で止めたときもそうだった。

私はヒュプノスと地上人を天秤にかけたのだ。
ヒュプノスが愛しいならその場に残れば良かった。家族と言う枠組みにまで入れていた弟だ。地上人は確かにわが子だが、ヒュプノスほど交流があったわけではない。

極論を言えば。
家族の死と、地上人の死を私が比べたとしたら
私は、子供らの“多さ”でものを決めるだろう。
それは、血族たちでも同じだろう。

一度助けた命でも、その時が来てしまえば、私は切り捨てる。


ああ――なるほど。
なるほど、そういうことか。
愛していても、子供達にとっては、私は裏切りの塊なのか。

その場その場で子供達にとっての最善を選んでいるつもりでも、残される子らに苦しみを与え、駆けつけた子らには感謝されるが、また残すときに憎しみを残す。

……本当に、子供達の心情は理解できない。しかし、今一端は感じ取れた。
なるほど、そういうことだったのか。だからヒュプノスは私に執着していたのだな。
だからグリゴリの子らは私にこうして凶器をつきつけるのだな。

なるほど、なるほど。
なら――なら、仕方が無い。

「いいだろう」

子供達。愛しの子供達。
子供達が私に裏切られたと憎んでも、私はやはり子供達を愛している。愛しているのだ。
殺すことに意義があるのなら、殺すことが子供達にとっての正義ならば、私は甘んじてそれを受け入れよう。

「殺せ、子供達」

そうしないと、私はきっとまた子供達を裏切るぞ。
それが許せないのだろう。それが耐えられないのだろう。
しかし私は等しく子供達を愛することを止められない。

殺せ。それが子供達がその苦しみから解放される、たった一つの方法だ。

……それに、一応は伝えることは伝えたし。これで世界が崩壊してしまったら、それも営みと受け入れよう。
愛しい愛しいこんな親を持った、可哀想な子供達。どうか、彼らに幸あらんことを。

 [back]