- ナノ -



  ]I


船は良い。
こう、揺り籠の中に入っているような、母親の子宮の中にいるような安堵感が伝わってくる。
まぁ私に揺り籠や子宮に入っていた経験などないのだが。

しかしその感覚も人それぞれなようで、アニーミという子は酷く気持ちが悪いのだそうだ。

島から出て、船に乗り大陸へ。
大体話をし終わった子供らは深刻な様子で、話の内容を噛み砕いていた。
リカルドにも話していなかった事柄なので、あの子も共に。

私が言ったことは真実の一握りに過ぎない。
例えば、マティウスの目的は創世力による世界滅亡。
例えば、そのマティウスを救えるのはルカ・ミルダだけであること。
例えば、マティウスは枢密院を利用しているだけで、後々には切り離そうとしていること。

己のことも話し、とりあえずは相互理解にこぎつけた。
私的には特に理解しあわずともよかったのだが、リカルドが頑張ってくれた。いやぁ、こんな兄を持つと大変だねぇ。


そんなわけで無事子供達は次の段階へ進む――私はもう見ているだけだ。
と思ったのだが。

「タナトスさん、一緒に来ていただけませんか?」
「……む?」

マジか。
おいおい。一応説明のときにこれ以上の干渉はしないって言っておいたはずなんだがな。
後ろて事の顛末を見ているメンバーのリカルドも、そのことを知っているからか気まずそうな顔はしているが、止める様子はないようだ。
ということは事前に承諾済みか。

「して、なぜその案を選んだ?」
「タナトスさんも、僕達と望むものは一緒だと思ったからです」

にしても随分と肝が据わっているな。
一応は神ということは示したのに、こうも堂々としているとは――って。あれ。足が震えているな。
思えば後ろからアニーミとベルフォルマが後には引けないような目でミルダを見ている。
……なんだか可哀想になってきた。了解してしまおうか。

と、そのとき。
だんだんと近付いてくる駆動音。
それは船のものではない。それ以外の、機械物。

確か、転生者研究所で聞いたことの在る音。
視線を向ければ、遠くに見える黒一点。
子供らもそれに気付き見ていれば、あっという間に姿を現した。

「ギガンテス……」
「どうしてあの兵器がここに……!」

口々に上がる驚愕の言葉を聞きながら、その操縦席に座る子を見る。
全ての生き物が私の子だ。だからこそ誰がそこに存在していても私の子だが。
そこに座っていたのは、私の子供の中でも、身近な存在であった血族だった。

『見つけましたよ、転生者ども。そして、タナトス様』
「……」
『っ』

睨みつけるように視線を送ってやれば、一瞬詰ったような声を出すも、向けた銃口は下ろされていない。
そのまま見つけ続ければ、痺れを切らしたようにその銃口から見たこともない光線が発射された。

それは私の腹を貫き、海へのめり込むように消えた。
ふむ……腹が痛い。あと血がすごい。

「兄者!」
「心配するな弟よ。……用があるのは私だけだな。さて、行こうか」
「兄者、待て、待ってくれ兄者!」

必死に引きとめようとする男は、そのまま船の縁を乗り越えて海へ落ちていきそうな勢いだった。
それを声をかけるだけに止めて、そのまま跳躍する。
血族が乗る機械を踏み台にして、更に飛ぶ。

ふむ、確か後数百メートル先に丁度良い感じの小島があったはず。
弟が気がかりで後ろを振り向くと、仲間達に押さえられていた。

「ふむ……家族とは面倒なものよな」

ああいう様を見ているとそう感じる。そんなに取り乱すなよ愛しい子。こんな兄を持ったばかりになぁ。

そうは思いつつも、頭の片隅で感じる安らぎも悪くはなかった。
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