- ナノ -



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うーん。煩いなぁ。
いや、いいんだけどね。愛しい弟からの交信は嬉しいし、旅の話は面白い。
時折冷や冷やするが、それでも順調に進んでいる様子で、微笑ましい限りだ。

とまぁ、そういうわけなのだが。
……いかんせんヒュプノスからの念派の量が多すぎる。
ヒュプノス――今生ではリカルドという名の男は、どうやら長い間私を探していたらしく(といっても今生でだそうだが)私と会えたことが嬉しくてたまらないらしい。

私もだ、唯一の家族だったものよ。
しかし私の愛よりも濃く強いらしい男のそれは、永遠と続く愛の言葉で埋め尽くされている。
なんというか、嬉しいのだが照れくさい。

それに、一応はもう私たちは家族ではない。ならばここまで執着する必要もあるまいて。
そういおうと思ったが、泣かれそうだったのでやめた。
さすがに旅の途中で突然泣き出すのは可笑しな光景だろう。しかも27歳だというではないか。子供達に情けのない姿を晒すには少々辛い年齢だろう。
……髭を剃ればもっと若く見えると思うんだけどなぁ。

それをいったらわたし自身もそうなのだが。
顎に蓄えた白い髭は、おそらく私の歳をさらにかさ増ししているだろう。といっても元々何千歳なので人間的な観点から言った年齢でもさほど気にするものでもないがな! 

幼い子供の同行者からは「おっちゃん」などと呼ばれているようだし……。
いつまで経っても子供は子供、愛い子供は愛いので、少々違和感がある。まぁこれも時の流れか。

『――と、いうわけで今からそちらの島へ行く。いいか?』
「あぁ、何を許可がいるものか。愛する弟の帰還だ。手厚く出迎えてやる」
『……兄者。すぐに行く』

糸が切れるように回線が切られたのを感じ取って、ふぅ。と息をつく。
さすがに長時間の念派は疲れる。能力的な意味ではなく、精神的な意味で。

リカルドは話す事は尽きることなくあるだろうが、私はそこまで喋るのが得意ではない。
だからどうにも口数が少なくなる。そうすると喋らせるだけになって申し訳ないのだ。
可愛い子供の話を聞くのは楽しいし、それが親の役目なのだろうが、言葉を返せないのはもどかしい。

……ちょっと会話の練習でもしてみるか?


まぁ、それは置いておいて(でも折角だ、いつか血族たちに協力してもらおう)、島に来るといった彼らのことを思い出す。
転生者たち――6人の大所帯だ。しかも面々が重要人物たちで固められている。
前世に見合った天術を使い、彼らは国々の思惑や人の策に溺れることなく歩を進めている。

グリゴリ族は昔から転生者と折り合いが悪い。
それは我らが転生者たちを静めてきたことに起因するが、一部のものは天上人に劣等感を抱いているようだった。

私も天上人(転生者以前にそのまんま)な私はいいのかという話だが、いいらしい。
寧ろ以前私と同じだったということが転生者たちを嫌悪する理由だそうだ。
当事者だからかあまり子供達の意見が分からない。
しかし分かってもらおうとしているわけではないらしい子供達は、誤魔化してばかりだ。

なんだか寂しいな。寂しいぞ。
しかし隠し事をするのもまた成長している証拠。自立とは親の知らないことをすることでも在る。見守るばかりだ。


そんなこの島に彼らを導こうなどというのは、少々理不尽なことだ。
天術を封ずる力を使える我が血族の子等が、転生者たちに何かする可能性も無きにしも非ず。

しかし、それでも着てもらわなければ。この海の孤島に。誰からも邪魔が入らない島国に。
自らの前世との決別を図る彼ら。リカルドは私に関してはまた違う気もしないでもないが、それでも前世に囚われずに生きてゆこうともがく者たち。
だからこそ、彼らに話しておこうと思った。

彼らはいつか、愛しい子供達同士で争うだろう。
いつかの信念と似た、しかしまったく違う意志を持ち。
私は、彼らを応援したい。本来ならば、親は首を突っ込むべき話題ではないのだが。

「私は、まだ失いたくはない」

そう、失いたくない。
全てを失くす事が、愛しい子の心からの願いであったとしても。

それを止めることが出来る子がいるのなら。

「どうか此度は、」

子供達が幸せになれる選択を。子供達が選びますように。
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