- ナノ -

11,「……まるで“子供”みたいだな」
キャラ崩壊注意

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曹操は早朝から不機嫌だった。
寧ろ意識が覚醒する前から、何か息苦しさを感じそれで目を開いたのだ。
息苦しさは床が何かに圧迫されていることから来るものらしい。寝る前にはなかったものだ。
もしや、間者かと平和になった世でも警戒を怠らぬ曹操はそっと枕の下に隠しておいた小剣を手に取った。

「グッモーニンもーたそ。目覚めのキッスはお求めかい?」

その声を聴いた瞬間、振り下ろそうとしていた小剣が手から滑り落ちた。


「孟徳! 書類が滞って、い、る……」
「おお、夏侯惇」
「おお、惇ちゃん」

「……お、まえは」
「ヤダ惇ちゃんっ、俺のこと忘れたの!? あっちょんぶりけ! 酷いわ家出しちゃう!」

身体を固め、書簡さえ落とした夏侯惇は目の前の光景が信じられなかった。
曹操が果実を男の口へ自ら運んでいる。元ではあるが、国の実質頂点である曹操がする行いではない。
だが、それが夏侯惇を驚かせ、言葉を失わせたのではない。
意味不明な言葉を解す男が記憶が霞むほどに昔にいた男のそのままの姿になっていたことが、夏侯惇から身体の自由を奪った。

その男は、泣くふりをしながら夏侯惇の脇を駆けていく。
それを曹操は声をかけて止めるが“ごめんね俺にはいかなきゃいけないところがあるの! 止めないで!!”といってそのまま姿を消していく。
と思いきや走って帰ってきた男は、同じ背丈ほどの夏侯惇の目の前に舞い戻り、そうして頭を下げて拝んだ。

「俺のせいで左眼矢刺さっちゃってごめんな!! もうほんと悪かった! 代わりに嫁にするから許して! じゃあな!」

男はそういってそのまま去っていった。




「うはははは胡散臭いコンビだなほんと!! 生で見るとおもしれー! 徐庶が浮いてるー!! あははははは!」

「……生江、ど、のは、頭が、可笑しく、なった、の、かねぇ……?」
「お、おおおお俺にはどうしていいかさっぱり分からない。や、ややや、やはり俺には乱世は――」

書類を渡す為に三人が珍しく郭嘉の部屋へ揃っていたところで、男はやってきた。
その男は窓から顔をだし、馬鹿笑いするとそんなことを言いながら指をさして叫ぶ。
“鬼”なんて言われていたはずの男がまるで近所の悪ガキのような行動をするのを、賈クと徐庶は目を虚ろにしながら受け止めるしかなかった。

そうして一人、目を見開いていた郭嘉は、にっこりと笑みを浮かべた。

「やはり、貴方の笑みは輝いているよ」
「おっ、やっぱりー? ってお前に言われたくねーよ! 嫌味か、嫌味なのか! もうカッコいいなぁ、惚れるぞ!」
「惚れてもいいよ。大切にしてあげよう」
「きゃあああああ告白されちった☆ でも俺嫁候補と婿候補いっぱいいるから後でな」
「釣れないなぁ」
「郭嘉様はそれでも受け止めてくれそうだから好き!」
「ふふ、そういわれてしまうと受け入れざるを得ないね」
「やだ、ほんと惚れる!」

んじゃまたなー! そういって窓を離れていく男に、ポツリと胡散臭いと言われた一人は呟いた。

「……まるで“子供”みたいだな」

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bkm