色々ぶっ飛び平和になってます。
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いつの間にか、乱世が終わっていた。
なんかいろいろ大変だったり殺しまくったりしていた気がするが、なんだか記憶が確かじゃない。
なんでだろうなーと思ってみたりしたが、まぁ曹魏が平和だしいいんじゃないか。
平服で立派な城の廊下を歩いていれば、目の前から夏侯淵がやってくるのが見えた。
表情も緩んでいて、ああこれが平和ってやつかと噛み締める。
すると夏侯淵もこちらに気づいたのか、手を振ってきた。
それに目線で返すと、顔が面白い風にゆがめられる。
「生江よぉ、折角手ふったんだから振り返してくれよ」
「ああ、すまない」
怒られたので謝れば、更に顔が歪められる。面白すぎて腹筋崩壊しそうだ。主に脳内で。
腹筋崩壊なので見つめていれば、夏侯淵が不機嫌な顔で言った。
「嘘かよ」
「何がだ」
「二十年後に戻るっての!」
え? 二十年? ん? あっ!
思い出した。確か、約束をしていた気がする。
曹操を守って矢が肩に突き刺さり療養していた頃、夏侯淵が邸宅にやってきて、そんな約束をした。
でも、まだ二十年たってないぞ。曹操があまりにも早く天下統一したから、二十年もかからなかった。
口を噤んでいれば、夏侯淵が泣きそうな顔になった。えっ、ちょ。
「なんでだよ……平和にはなったろ。お前、ずっとそのまんまなのかよ」
「……淵」
「昔の生江にはもう戻んねぇのか?」
どこか潤んでいるような瞳で見つめられ、胸に来ない従兄弟はいない。いるはずがない。
な、なんでそんな顔するんだよ。だって、ああもう。分かった。分かったから。
はぁ、とため息をついて夏侯淵の肩に手を置く。
すると目を丸くした従兄弟に、こういった。
「明日、一日だけだ」
「……明日、一日?」
「ああ。待ってろ」
あーこうなりゃもとに戻るトレーニングしなくちゃな。
十数年間も真面目モードをしてきたんだ。もう真面目モードが性格になりつつある。だってのに、いきなり昔も戻せってなぁ。なかなか大変なんだぞあのテンション。
――ああ。でも。
夏侯淵とすれ違うようにして、そのまま遠ざかる。
「(夢だって、思え、ば)」
そういえば、夢は覚めない。