- ナノ -

5,「何を、見ているんだい」
うがーんうがんよーなぜあなたはうがんなのー。
斬っても斬っても何処までも溢れてくるそれに苛立ちだけが募る。
どうして俺はこう毎回の事傷だらけになってるんだ。そして郭嘉は早く撤退しろ。いいから撤退しろ。その方が気が楽だ。援護としているんだろうが、そんな顔色が悪い状態でいてくれても気にかかるだけだから撤退してくれ。
方天画戟を振り回しながら、漸く最後の一人を倒し終わる。

「生江殿、助かったよ」
「……早く曹操の元へ戻るぞ」

鳥丸を全て撃破し終わり、死体が積まれる中で郭嘉が無事であることを確認する。
大丈夫だろうか。一応ひと段落し笑みを浮かべているが、郭嘉は常に笑みを浮かべているから、それで判断はできない。
顔色も元々白い肌が青白くなっている。早く休ませてしまいたい。
それだというのに、郭嘉は特徴的な武器を手に持ちながら俺に話を振ってくる。

「どうして、ここが分かったんだい?」
「伝令兵から聞いた」

嘘は言っていない。鳥丸を警戒しながら適度に敵を倒していた時に伝令兵が走っていたのを見て無理やり内容を聞きだしたのだ。郭嘉がやってくる前に倒し切ろうと武器を振り回したが、流石に間に合わなかった。

「それでも、ごほっ」
「郭嘉」

咳き込み身体を前かがみにした郭嘉に近寄れば、手で制される。
細い息に焦燥が身体を駆け巡る。
何か言いたいのか、息を整えている郭嘉には悪いが、その体に手を伸ばす。

「っ、生江殿……!?」
「大人しくしていろ」

身体に触らぬように抱き上げて、そのまま乗ってきた馬に乗せる。
馬を一度撫でてから、自らも同じ馬に乗りこんだ。いわゆる二人乗りだ。
頑強な馬は鳴きもせずに、平然としており安心する。
郭嘉の武器と自らの武器も持ち、目の前に郭嘉殿を乗せて出来上がりである。

「生江殿、これは」
「気にするな、行くぞ」

俺の突然の行動に驚いてか咳き込む郭嘉の背を軽く撫でながら、馬の手綱を引く。
悠々と動き出した馬はうまく振動を和らげていて意図を綺麗に組んでくれる馬に感謝する。
ムービーに遅れさせるのは申し訳ないが、それより郭嘉の容態が重要だ。夢ではあるがゲームではないのだから、下手な動きはできない。
慎重に馬を歩かせていると、郭嘉が何かを呟く。

「……貴方は」
「どうした」
「何を、見ているんだい」

とつとつと話す郭嘉は、病を患っているせいか儚く思えてハラハラしてしまう。
しかし、独り言のような言葉に答えるか迷い、少ししてから口を開いた。

「未来だ」

そう、未来を見ている。
それから

「夢を」

夢を、見続けている。



それから、ずっと郭嘉を監視し続けていたが馬でうっかり死亡エンドは見られなかった。
「(後は、大詰めだ)」
しかし、郭嘉を監視している間、曹操や賈ク、張遼にまでチラチラと視線をもらっていたが、なんだというのだろうか。

prev next
bkm