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魔導器大嫌いな少女(Tales・レイヴン)

「止めてください……!」
「そんなこと言わないでよ」
「いや、だから嫌なもんは嫌だっていってんじゃないですか……!」

最初から可笑しいと思ってたんだ。一緒に服買いに行こうなんて、そもそも一着ぐらいしか衣服を持っていなさそうなレイヴンさんに対していつもどおり怪しいと思いつつ、それでも着いていってしまった自分を殴りたい。
何せ、今彼は上半身をはだけさせて、そこから見える心臓魔導器とやらを私に触らせようとしているのだから。

「ヤダってば! 何心臓魔導器って!」
「だから、言葉どおりだってば。心臓の変わりの魔導器なの」
「そりゃあ凄いでござんすねぇ……!」

素直にそれは凄いと思う。魔導器はここまで来たのかとある種の感動さえ覚える。
しかし同時にそれ以上の恐ろしさを感じる。ここまできてしまった魔導器はどこまで行くのだろうか、と。
私の両親は魔導器に殺された。ちゃんというなら魔導器の武器にだが、それでも恐ろしさは変わらない。
その魔導器がいくら便利だとして、それをどうやっても使わなくてはならなくても、その恐ろしさは拭えない。
だから、使うとしても自分から積極的になんて無理だ。
しかも今みたいに無理やりだなんて特に。

「やっぱり気持ち悪い? 中に入ってたら」
「そういうんじゃありません。寧ろ心臓の代わりを果たしていてそのお陰でレイヴンさんが生きているなら立派だとさえ思います! 思いますけど、それをどうして私に触らせようとするか分かりません!」

怯える私の言葉に、ぽかんとして、そうして嬉しそうに微笑んでありがと。というレイヴンさんは可愛いと思うが、それよりもその手を離してもらいたい!
レイヴンさんは私に心臓魔導器を触らせようと手をがっちりと掴んで徐々に近づけていっている。本当にやめて!

「なんで私に触らせようとするんですか!?」
「だって、好きな人には受け入れて欲しいじゃない」

叫んだ疑問に予想外の答えが返ってきて、思わず気が抜ける。
その隙に、レイヴンさんが私の手を引っ張って、そのまま抱き込まれてしまった。
胸の辺りに、レイヴンさんの心臓魔導器が当たる。その固い触感に思わずビクリと震えた。

でも、その魔導器は確かに心臓の役割を果たしていた。
どくどくと、機械的ながらも鼓動の音が伝わってくる。
レイヴンさんが耳ともで優しく、しかし私より何かに怖がるように問いかけてくる。

「……怖い?」
「怖い、ですけど」

命の音がします。と答えたら、耳元で、だから生江ちゃんって好き。と囁かれた。

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bkm