――死の間際に、過去の記憶が蘇る。
幼い子供たちが愛らしく、微笑ましく、本当に可愛らしかった。
自分よりも5歳ほどしか年下でない子供たちだったが、私にとっては5歳はとても大きく、周囲の大人や勉学・情勢に飽き飽きしていた私にとってはとても清く純粋で暖かな幼子たちだった。
可愛い子を構ってしまうのは道理であり、それが構いすぎると嫌われるということもあるだろうと知っていても気持ちが抑えきれないほどに私は彼らを愛しいと思っていた。
そのせいで周りが呆れるほどにどろどろに甘やかしてしまった。だが、結果子供たちが驚くほど甘えたになってしまったのは予想外だった。
嫌われなかったのは心から喜んだが、甘えたになってしまったことに関して将来が心配な反面とても嬉しい事だった。
宦官の家や位の高い家に生まれた子供たちは、両親に甘えるということをあまりやってこなかった。確執があるというわけではなかろうが、それよりも周囲の従兄弟と遊んだり子供たちとちゃんばらをする方が性に合っていたのだろう。
それを自分が身体が弱い性質だということを餌にして、室内に連れ込んであれやこれやと可愛がったのが功を奏したのか、それとも罰が当たったのか、彼らは私限定の甘えん坊になってしまった。
そうしてそれが、何年も先まで続くなんて考えてもいなかった。
いつか自分から離れていってしまうのだろうと確信していたのだ。
私は病弱で、歳を重ねるごとに床から離れられなくなっていった。それに反比例するように情勢は荒れ、膿が表面化し、そうして野心に燃える群雄によって戦の時代となっていく。
それについてゆけない私は、きっとそれに乗り込んでいく勇ましい従兄弟たちからは見放されてしまうのだろうと。
「生江」
だから、彼らが私に共に往こうと言ってきたのに、とても驚いた。
何もできない。せいぜい書簡の処理ぐらいしか仕事という仕事ができない私を、連れていくなどという選択肢があるのかと。
それでも、既に戦場へ往けるほどの体力もなかった私は、その申し出を断った。心底ついて行きたかったが、耐えられるほどの力がなかった。
「ならば、迎えにこよう」
昔は、あんなにも可愛らしかった子供たちが、凛々しい表情でそう言い切る。
そんな表情も、私がひと撫でしてしまえば崩れてしまうのだから、ますます離れがたい。迎えに来るまでの間。この愛しさを一人抱えて待っているなど、出来るのだろうか。
「出来るだけ早く迎えに来てやるからな!」
眩しい笑みを浮かべ発したその言葉に、必ずだよ。と返せば、勿論と打つように帰ってくる。それに、心から満たされた。
ああ、ならやはり。
「だから――」
可愛い可愛い弟たち。
ああ、そんな顔でこちらを見ないでくれよ。私だって寂しいんだよ。
4人の手をそれぞれ握ってやれば、名残惜しそうに握り返してくる。私の細い腕よりも随分と逞しくなってしまった彼らだったが、それでもどうしてか、どろどろに甘やかしてあげたくなるほどに愛しいと思ってしまう。
「いってらっしゃい」
でも、それを彼らも望んでいるというのなら、別段隠すこともないだろう。
そうであることが互いにとって良い事ならば、止めることもしなくていい。
だから、早く迎えに来ておくれ。お疲れさまという言葉と共に、その固くなってしまった表情を溶かしてあげるから。
――ああ、そう、思っていたんだけれど。
「……ごめんよ。孟徳、元譲、妙才、子孝」
あの可愛い弟たちは確かに私を迎えてくれた。
寄立べき土地と城を手に入れ、私たち一族を自らの土地へ来るようにと遣わせてくれた。
少し前に、もう少しで会えるという書簡までもらっていた私は、心臓が弾けてしまうのではないかと思うほどに楽しみにしながら馬車に乗っていたものだ。
その一団がよもや護衛をしていた者たちに襲われるとは思わなんだ。
武器もなく、腕を鍛えていたものもいなかった私たち一行はまるで虫でも殺す様に殺されていった。
ようやっと会える、と思いを文にして送ったばかりだったのだけれど。
「(生まれ変わりがあるならば)」
また、あの子たちに、会いたい。