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一つの約束(359・曹操・トリップ武将主)
行き成りこの世界にやってきたときは、あ。間違いなく死ぬな。と思ったが、案外そんなこともなく今までどうにか生きて来れた。
それも森の中で茫然としていた俺を見つけてくれた曹操がいたためだし、未来から、しかもたぶん違う世界から来たと主張する俺を曹操が面白いと傍に置いてくれたためだし、衣食住を保障され何かしなくてはと焦る俺に鍛錬をつけてやれと夏侯惇に命じてくれた曹操がいたからだろう。
もう、恩人も恩人。命の恩人だ。
彼がいなければ俺はあの森の中で息絶えていただろうし、俺の主張を彼が信じてくれなければ頭がおかしくなったと見放されていただろうし、焦る俺に彼が手を差し伸べてくれなければ今ごろ慣れない環境と一人での寂しさで泣き腫らしていただろう。

だから、彼は俺の恩人だ。
世間で覇王と呼ばれ、乱世の奸雄と言われていようと、彼は俺にとってまるで太陽のような人だ。
そんなこと、他の人の前で言ったら可笑しな顔をされるんだろうが。

「曹操殿」
「おお。生江か。どうかしたのか」
「いいえ、偶然お見かけしましたので……一つ、よろしいでしょうか」
「なんだ。言ってみろ」

彼は信用ならないであろう俺を兵士として扱い、功績を評価し今では将軍の位を与えた。
どこからやってきたのか、身分も過去も不明な相手にすることではない。
勿論軍の中では不平不満を持つものもいるが、彼は俺が働きやすいようにと気を配ってくれている。それが全て彼の一存でないとしても、俺は彼に感謝している。

「一つ、約束させてください」

ただの青年だった俺はいなくなり、この乱世で生き抜いていく俺が出来上がった。

「貴方に、忠誠と愛を誓うと」

騎士然として、片膝をついて頭を垂れると、少し間があって大きな笑い声が響いた。

「面を上げよ」
「はっ」
「……ふっ、いつの間にそのような精悍な顔立ちになったのやら」

そう笑う彼に、俺も笑って答えた。

「そうさせたのは、貴方ですよ」

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bkm