- ナノ -

無限大∞
「酒池肉林じゃあ!」
「うっさい死ね!」

混乱した朝廷から子供二人(一名私)をしょっぴいて馬車で駆け抜ける董卓が「これで朝廷を掌握したも同然。これからは儂の時代じゃぐぁっはっはっは!」と盛大な独り言を叫んでいたので煩すぎて思わず隠し持っていた短剣で背中からぐっさり刺してしまった。
うわーめっちゃ血がどくどくしてるわー怖いわー。

「な、こ、このクソガキがぁ!」
「うわっ、ちょ、マジキモイ寄ってくんな」

もう一本隠し持っていた短剣で首をぐっさりいく。
そうすると盛大に血を噴射させてそのままどさりと後ろへ倒れ込んだ。最後に「儂の、儂の天下が……」と妄想を呟いて完全に力を失ってしまった。うん、死んだな。
しかし、はじめましての人殺し。顔が真っ赤になってしまいましたよ。別に、董卓も嫌いじゃなかったんだけどね。あの欲に塗れた感じ、嫌いじゃないよ。でもね。ごめんね。欲深いのは、二人も要らないんだよ。

「劉恊」
「はっ、はい……!」
「奥で縮こまってろ」

馬車の中で起こった異常事態に気づいたのか、馬車が急停止する。
恐らく董卓の声が聞こえたのだろう。馬車は周囲を覆って外からは見えない形になっているので、中で具体的に何が起きたのかは分かってはいないだろうが。
兵士が扉を開けないうちに董卓の剣を引っこ抜く。おうおう、立派なもんですなぁ。
それを成人していない体でどうにか様になるように持って、扉を一閃する。

「なっ、こ、これは……!」
「董卓様!?」
「ど、どういうことだ!?」

さて、三者三様。いや、みんなみんな驚いている。
そうして血まみれの私を見て、中で起こった出来事を知るが、皇帝であるが故に糾弾することが出来ない。あははは、この時代、地位が需要で仕方がないね!
それをいいことに、私は剣を高く掲げて叫ぶ。

「逆賊董卓、漢の皇帝少帝弁が討ち取ったり! 朕たちを囲い権力を意のままに操る算段を企てた董卓は朕が直々に処断した! 刑は死罪! お主等も、重々そのことを承知し朝廷へむかえ!!!」
「な、なんだと……!」

一人が突っかかってきた。うるさいやつめ。せっかく私が似合わないのにカッコよく決めたってのに。
向かってきた兵に剣の切っ先を向ける。ついでに睨みつけてやれば、途端に身を縮ませるのだから馬鹿らしい。

「愛と正義と勇気は無限大! 俺が正義だ歯向かうやつは皆悪だ! ふざけたことを抜かしたり敬う姿勢がなければぶっ殺す! さっさと持ち場について俺たちを朝廷へ連れて行け、ハリーハリーハリーHURRY!!!!!!」
「ひ、ひぃぃっ、か、かしこまりましたぁ!」

先ほどまで怒りに血走っていた目を怯えに染めて、そいつはさっさと逃げ出してしまった。なんだよ、そんなに怖いかよ。
早くしろ早くしろと言っていると、やっとこさ馬車が動き出す。ふぅ、まったく仕事ができない奴は嫌だなぁ。
しかしまぁ。

「何、私ってそんなに怖かった?」
「……まるで狂人のようでした」
「なーんだ、通常運転じゃーん」

何を怖がってるんだか。
そういって笑えば、縮こまっていた劉恊がひょっこりと顔を出す。
恐る恐る董卓の死体を飛び越えてこちらへやってくるのを手を差し伸べて迎える。
この馬車めっちゃ広いけど、董卓の死体が寝そべってるから邪魔で仕方がない。

「兄上……」
「何?」
「この、董卓の遺体は捨て置かないのですか?」

まぁこんなところにあるんじゃ気が休まらないよな。でもごめんね。

「朝廷についたら逆賊として火あぶりにするんだー」
「そ、そうですか」
「あ、皆もお腹空いたら言ってね。こいつの肉で良かったら斬って食べさせてあげるから」
「ひ、ひぃいい」

あっはっは。そんなに怖がらないでよもー。
董卓についてた君たちも、ちょっとでも抵抗したら殺される運命なんだからさぁ。
勿論、一切抵抗しなかったら下っ端にしてあげるよ。人命は大切だからね!

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