- ナノ -

呂布ヘタレ話(対陳宮の場合A)
対陳宮とは繋がっていません。
陳宮のキャラも違います。




「呂布殿にかかれば、一網打尽、一網打尽ですぞ!」

誰かこの妖精をどうにかしてくれ。
俺の身長からすると、かなり低い位置でふらふらと左右に飛んでいるかのように行ったり来たりする軍師に、溜息をつきたくなった。
董卓をぬっ殺し、俺なんかについてきてくれる兵たちを引き連れ道を行く。
その中で面倒事に巻き込まれることもあるのだが、大体がこの軍師のせいである。
どうやら彼は俺にどうしても天下を統一してほしいらしく、いろいろな策を伝授してくる。いや、だから、俺はそういうのはいいんだって、平和に暮らしたいだけなんだって。
しかしその気持ちは伝わらないまま、軍師こと陳宮は意気揚々と俺の力を称えてくる。いや、だからね、そういうのはいいから……。

「陳宮」
「なんでございましょう!」

ばっと演技かかった手振りで目の前で立ち止った陳宮に、やっと動きが止まったかと思う。この軍師はふらふらと動きすぎなのだ。俺は動かなすぎだけど。

「休め」
「は……」

陳宮が何かを言おうとし、そうして石のように固まる。
何かこちらが言うと、時折陳宮はこうなる。恐らく彼の考えていたことの範疇外の出来事が起こるとこうなるのだろうが、俺が何か言うと大概こうなっている気がする。

「そ、それはどういう、どういう意味ですかな」
「身体を崩す前に休めと言っている」

動揺した口調で両手を動かす陳宮に、また動き出したなと思いながら説明をする。
だって、この軍師働きすぎですもん。この軍は寄せ集めの軍で、俺が軍の主であるということしかきちんと決まっていない。
そんな中で列記とした軍師が二人もいるわけもなく、陳宮だけがこの軍の頭脳である。
この状況の中で、彼が馬車馬のごとく働かないわけもなく、その仕事ぶりを見ている身としてはハラハラドキドキしてしまう。
いや、俺が頼りないからっていうのもあると思うんですがね。というかそれが9割ぐらい占めているとは分かっているんですがね。だからこそ余計にそんなことを思うというかなんというか。

陳宮は、なんというか、小さい。
男としては、という前提が勿論入るし、現代日本で考えれば普通ぐらいの身長だとは思うのだが、筋肉量も少なく思える。いわゆるもやしである。
俺は呂布であるし、身長も筋肉量も比較するのが間違っているレベルであるのだが、そんな身体を持っていると陳宮があっちこっちに慌ただしく動き回っているのを見ると心配になってしまうのだ。身体を壊しそうだとか、寝不足になってないかとか。
すごく、すっごく要らぬお節介だと思うのだが、それでもやっぱり心配なのだ。

俺の心中など知らずに「しかし……」と口を開こうとする陳宮の首根っこをひっつかむ。

「ひっ!?」
「いいから休め……お前はこの軍に必要だ。身体を壊すなど馬鹿げたことをしてみろ、当分部屋から出さんぞ」

目の前に猫のようにぶら下げながらそう言って、言い終わった後に恥ずかしくなってそのまま俵のように担ぎ上げる。
再び悲鳴が上がるが、そのまま気にせずに陳宮の部屋へと足を進める。
あーもう、もっと優しく言わなくちゃいけないのは分かっているんだが、どうにもできない。呂布になってから、どういうことが壊滅的に口が不器用なのだ。だから勘違いされたりされるんだろうが、こればっかりはどうにも治らない。

ずんずんと進んでいると、後ろからかすかな笑い声が聞こえた。
誰かなんて分かっている。陳宮だ。
何も笑うことないだろうと思いながらも、何も反応を返さずに歩いていく。
そうすると、後ろから小さな声で何か聞こえた。
何を言っているかは分からなかったが、悪口じゃないことを祈る。


(そんな貴方だからこそ、天下が、天下が相応しいのですぞ)

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bkm